【記者会見を実施】水産学部附属練習船おしょろ丸が5年ぶりの北極航海から帰港～55日の航海から得られた成果を乗船者が報告～

令和5年9月21日（木）に行われた北海道大学定例記者会見^＊にて、水産学部附属練習船おしょろ丸が本年6月8日から8月1日に実施した北極航海について、乗船した4名から報道関係者に向け、報告しました。

＊北海道大学定例記者会見は、本学の特色ある教育研究活動や運営状況等を社会に向けてわかりやすく発信することを目的とし、定例で開催されているものです。

■発表者
・北海道大学大学院水産科学研究院　上野　洋路准教授
・北海道大学北極域研究センター　大西　富士夫准教授
・北海道大学大学院水産科学院修士課程1年　北村　もあなさん
・京都大学教育学部学部3年　永井　光洋さん

発表者の集合写真。左から、上野准教授、北村さん、永井さん、大西准教授

会見では、まず、主席研究者（教育・研究面での責任者）を務めた上野准教授から海氷減少等の北極海を取り巻く問題や、洋上のキャンパスとも呼ばれるおしょろ丸が教育・研究分野で貢献している様子、航海日程・乗船者について紹介しました。

「おしょろ丸の強みを生かした観測を行い、北極海における海洋生態系の変動について総合的な理解を目指すことをメインテーマに調査した」と述べる上野准教授

次いで、北村さんは「北極海を研究する理系大学院生として研究航海に参加した目的・得たもの」というタイトルのもと、自身が今まで持っていた知識と、実際に体験することの違いについての驚きや、航海を通じ、普段の研究生活で見ていたデータからは見えなかった部分が見えるようになったと報告しました。

現場に出て、確かめることの重要さを感じたという北村さん
（北村さんによる北極航海出港式の学生代表挨拶はこちら）

３番目に発表したのは、大西准教授です。北極航海の後半で、文部科学省北極域研究加速プロジェクト（ArCS II）の支援の下、初めて公開実習^＊を行いました。

この公開実習で、人文社会学分野を担当した大西准教授は「自分と北極海との繋がり」をテーマにしたと述べました。

＊公開実習はArCS IIにおける若手人材育成活動の一環として、海洋物理・化学観測、プランクトン・魚類等の採取、鳥・哺乳類などの目視調査等を行い、北極海の海洋環境や生態系を理解するとともに、北極圏の歴史や文化を学ぶものです。全国の文系学部を含めた学部学生を対象に公募したところ、10名の定員に対し、6倍もの応募がありました。

詳細はこちら（ArCS II Webサイトへ遷移します）

「練習船おしょろ丸で、人文社会学としてどんな講義を行うのが良いか自分にとっても挑戦だった」とコメントした大西准教授

人文社会学講義では、ボードゲームや、グループディスカッション等のアクティブラーニングを行いました。最後講義で学生らが作成したポスターでは、大きく2つのキーワードが出てきています。

（大西准教授のスライドより抜粋）

”Arctic Glass” は、北極の自然環境がガラスのように脆弱であり、それを守るために自分ができること、社会がどうするべきかを、”We are the Earth”は、北極の学びを通じ、私たち自身も地球の一部である自覚を持って北極をとりまく問題に取り組む必要があるという気づきをまとめたものです。

最後に、公開実習生として乗船した永井さんからは「水産学部生でも，北大生でもないけれど，おしょろ丸北極航海に乗船してみた」というタイトルで報告がありました。

永井さんは、京都大学教育学部で教育行政学を専門に学んでいて、北極域が直接の研究対象ではありません。大学1年生のときに北極の海氷が急激に溶けていることを知ったこと、研究対象である文部科学省が作成した動画を見て極域研究の今を見たいと思い、公開実習に応募したと言います。

航海中の印象的なエピソードのひとつとして、北緯70度付近で見つけた北極の海氷が想像と違って、薄汚れて薄かったことから、北極を守るために自分にはなにができるのかと問いかけられたような感覚になったと述べました。

北極域研究に立ち会うことで、憧れを抱き、「今後は海洋教育学者として北極域へ貢献したい」と抱負を語った永井さん