酒井隆一教授が共同著者である論文がプレスリリースされましたのでお知らせします。
本研究では、がん細胞が異常な倍数化により遺伝子量が増大する現象に着目し、異常倍数化細胞に特異的に作用する化合物を見出し、そのメカニズムの一端を解明しました。酒井教授は、この化合物を探索する際に海洋天然物を含む化合物のライブラリーを提供しました。
ポイント
●ゲノムDNA量が増大した異常細胞を選択的に攻撃できる分子標的を発見。
●DNA量増大によって細胞分裂の制御に「弱み」が生まれる原理を解明。
●副作用の少ない、がん細胞の増殖を抑制する薬理制御法の構築に繋がると期待。
概要
北海道大学大学院生命科学院博士後期課程の吉澤晃弥氏、同大学院先端生命科学研究院の上原亮太准教授らの研究グループは、細胞の持つゲノムDNA量に応じて細胞増殖抑制効果が変化する化合物を探索し、その過程で染色体運動を司るモータータンパク質CENP-Eを阻害することにより、DNA量の増大した異常細胞を高い選択性で攻撃できることを発見しました。
近年のがんゲノム解析により、広範なタイプのがん細胞でゲノムDNA量が増大する染色体倍加という異常が起こることが分かってきました。この染色体倍加を起こした細胞を選択的に攻撃できれば、副作用の少ない細胞増殖抑制法の実現が可能になると期待されます。しかし、特定の遺伝子変異などを伴わない染色体倍加をよりどころとして異常細胞を見分け、その選択的攻撃を可能にすることは容易でなく、これを可能にする分子標的の発見が望まれました。
研究グループは遺伝的背景が同一でDNA量のみが異なる細胞株シリーズを作製し、これを用いた比較薬理実験を行い、細胞分裂期に染色体整列運動を司る微小管モータータンパク質のCENP-Eに対する阻害剤が、DNA量と比例して細胞増殖抑制効果を高めることを発見しました。詳細な細胞分裂動態の解析によって、DNA量の増大した細胞ではCENP-E阻害時に重篤な染色体不全が起こりやすく、極端な分裂遅延に伴う細胞死の頻度が極端に増加することがDNA量に応じたに選択的な攻撃性の原因となっていることを突き止めました。本研究で見出されたDNA量に応じた選択的な攻撃の原理を応用発展させることで、異常細胞を優れた特異性で増殖抑制する薬理制御法の構築に繋がると期待されます。
なお本研究成果は、2023年1月23日(月)公開のMolecular Oncology誌にオンライン掲載されました。
論文名:Tetraploidy-linked sensitization to CENP-E inhibition in human cells(ヒト細胞の四倍体化に応じたCENP-E阻害感受性増大)
URL:https://doi.org/10.1002/1878-0261.13379
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