山口 篤准教授、松野孝平助教が共同著者である論文が本日プレスリリースされましたのでお知らせします。
ポイント
●グリーンランドで起きた記録的な氷河融解に伴い、融け水の流入で海水循環が活発化。
●湧き上がる融け水によって海面への栄養輸送が強化され、大型の植物プランクトンが大幅に増殖。
●氷河の融解が加速するグリーンランドで、海洋生態系への影響に懸念。
概要
北海道大学低温科学研究所の杉山 慎教授、西岡 純教授、王 鄴凡博士研究員、同大学院水産科学研究院の山口 篤准教授、松野孝平助教、同大学院地球環境科学研究院の山下洋平准教授らの研究グループは、東京大学大気海洋研究所の漢那直也助教(元北海道大学北極域研究センター)と共同で、複数のカービング氷河が流入するグリーンランドのフィヨルドで観測を行い、氷河の激しい融解によってフィヨルドの基礎生産が活発になることを解明しました。
グリーンランドで記録的な氷河融解が起きた2019年の夏、氷河が流入するフィヨルドには窒素、リン、鉄分などの栄養素が前年より豊富にあり、大型植物プランクトンが大増殖しました。解析の結果、氷河の融け水に起因する海水の汲み上げ機能(氷河ポンプ)が強く働き、中層から栄養豊富な海水が大量に湧昇し、高い栄養環境で増殖する大型ケイ藻類が出現したことが分かりました。
この研究結果は、氷河の融解によってフィヨルドの栄養環境が良好になり、基礎生産が増加することを示しています。しかし長い目で見ると、温暖化によりグリーンランドからカービング氷河が失われてしまうと氷河ポンプは機能不全に陥るため、海洋生態系への甚大な影響が予想されます。従って氷河の融解が海洋環境に与える影響を、今後も注意深く観察し、理解を深める必要があります。
本研究成果は、2022年11月4日(金)公開のGlobal Biogeochemical Cycles誌にオンライン掲載されました。
論文名:Meltwater discharge from marine-terminating glaciers drives biogeochemical conditions in a Greenlandic fjord(カービング氷河の融解水の流出がグリーンランドフィヨルドの生物地球化学環境を制御する)
URL:https://doi.org/10.1029/2022GB007411
詳細はこちら
グリーンランド北西部イングレフィールドフィヨルドと氷河の衛星写真(J. Seguinot氏提供)。
2019年は記録的融解で雪が消え氷河の氷がむき出しになり、融け水の流入で海の色も変化した。
関係教員(画像をクリックすると教員紹介ページへリンクします)
◇松野孝平助教