2025年10月23日
ポイント
●食用海藻スジアオノリで、これまで海藻類では不可能だった精密なゲノム編集を実現。
●成長や香りなどの有用形質を制御する遺伝子を直接検証できる技術基盤を確立。
●海藻の香りや風味改良、環境適応機構の解明、藻類ブルーム対策など、社会や産業に貢献可能。
概要
北海道大学大学院水産科学院博士後期課程の秦 政氏、同大学大学院水産科学研究院の宇治利樹准教授、水田浩之教授らの研究グループは、抗生物質耐性遺伝子を選択マーカーとして利用し、その遺伝子カセットをゲノム編集技術(CRISPR/Cas)で標的遺伝子座にノックインする手法を開発しました。この方法により、遺伝子の位置や機能を高精度に特定できるようになり、有用遺伝子の探索や機能解析が効率的に可能になります。緑藻スジアオノリは、食用として香りや味に優れる一方で、アオノリ類は条件が揃うと大規模な藻類ブルーム(大量発生)を引き起こし、漁業や観光に被害を与える二面性を持っています。アオノリの成長や香り、環境適応の分子メカニズムを理解するためには、精密な遺伝子機能解析技術が不可欠ですが、これまで海藻類ではその技術が限られていました。
本研究では、まず抗生物質耐性を付与するaph7″遺伝子を選択マーカーとして用い、導入遺伝子の安定的な発現を実現しました。さらに、CRISPR/Cas9技術を用いて、内因性アデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(APT)遺伝子座にaph7″カセットを正確にノックインする手法を確立し、効率的に標的遺伝子改変株を取得することに成功しました。本技術は、スジアオノリの成長や香り成分生成などに関わる遺伝子の探索を加速させるだけでなく、アオノリ類の大量発生現象の分子メカニズム解明にもつながると期待されます。
なお、本研究成果は、2025年10月6日(月)公開のBMC Plant Biology誌にオンライン掲載されました。
論文名:Stable transgene expression and CRISPR-mediated knock-in system of a bacteria-derived antibiotic selection gene in the green alga Ulva prolifera(緑藻スジアオノリにおける抗生物質選択マーカー遺伝子の安定発現とCRISPRを用いたノックインシステムの開発)
URL:https://doi.org/10.1186/s12870-025-07411-y
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