2025年8月21日
ポイント
●2019年-2023年の5年にわたり時系列採集された動物プランクトンネット試料を画像解析。
●夏-秋季には5年の全期間を通して同じ群集が出現し、目立った経年変化は見られなかった。
●冬-春季は2019年と2021年以降で異なり、後者のサイズ組成は大型で魚類餌環境も良好。
概要
北海道大学大学院水産科学院修士課程(研究当時)の張 浩晨氏、同大学大学院水産科学研究院の山口 篤准教授、大木淳之教授、髙津哲也教授らの研究グループは、北海道の噴火湾湾央の1定点にて、2019年-2023年の5年にわたり、約1ヶ月間隔の動物プランクトンネット採集を行い、採集試料についてZooScanによる画像イメージング解析を行うことで、出現個体数、バイオマス、群集構造及びサイズ組成の季節変化と経年変化を明らかにしました。
夏-秋季(7月-12月)に見られた群集Aは、調査を行った5年を通して共通して観察されました。経年変化は冬-春季(1月-6月)にあり、2019年に見られた群集Dは冷水性の大型カイアシ類が多かったのに対し、2021年-2023年の3月-4月にまとまって観察された群集Eは尾虫類が多いことにより特徴づけられていました。群集Eは、高次生物へのエネルギー転送の指標となる回帰式であるNBSSの切片が高く、その傾きも緩やかなことから、優占した尾虫類が、春季植物プランクトンブルームの生産物を高次生物に速やかに受け渡せて、魚類仔魚に良好な餌環境であったことが示唆されました。動物プランクトン群集構造の経年変化は、大規模な海洋熱波が見られたタイミングと一致しており、噴火湾湾外の、親潮水における大型カイアシ類の資源量が減少したことが、春季噴火湾の動物プランクトン群集に見られた経年変化の要因であると考えられました。
なお、本研究成果は、2025年8月4日(月)公開のOceans誌にオンライン掲載されました。
論文名:論文名:Seasonal and interannual variations (2019-2023) in the zooplankton community and its size composition in Funka Bay, southwestern Hokkaido(2019-2023年の北海道南西部の噴火湾における動物プランクトン群集とサイズ組成の季節及び経年変化)
URL:https://doi.org/10.3390/oceans6030049
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噴火湾における2019年-2023年の5年間にわたり出現した動物プランクトン群集の季節(横軸)及び経年(縦軸)変化。クラスター解析により、動物プランクトン群集は群集A-Hの8群集に分けられた。夏-秋季には5年間を通して群集Aが出現し、経年変化は見られなかった。一方、冬-春季の群集は、2019年(群集D)とそれ以降で大きく異なった。2021年-2023年の3月-4月にまとまって観察された群集Eは尾虫類が多い事により特徴づけられており、それらを摂餌するカレイ類の仔魚にとって良い餌環境であったことが推測された。