2025年6月26日
ポイント
●性転換技術を用い、雌の遺伝型を持つ雄(偽雄)を作出。
●偽雄と通常の雌を人工授精により交配し、100%雌となる種苗個体群の作出に、世界で初めて成功。
●雄より雌が早く大きく育つクロソイ養殖において、出荷サイズ統一と生産効率化への貢献に期待。
概要
北海道大学大学院水産科学院博士後期課程のムエタ フリダ ガシェリ氏、山口 燿氏(現在は長崎大学所属日本学術振興会特別研究員PD)、同大学大学院水産科学研究院の平松尚志准教授、東藤 孝教授及び北海道立総合研究機構栽培水産試験場の川崎琢真研究主幹の研究グループは、クロソイ(Sebastes schlegelii)の全雌生産に世界で初めて成功しました。
胎生メバルの仲間のクロソイは、主に北海道をはじめ我が国の北方海域で漁獲される重要な水産資源であり、メバル類の中でも特に成長が早く、一尾の親から数万尾の稚魚を得られること、酸欠や水温・水質変化などの環境変化にも強いなどの特徴から、これまで養殖の試みも行われてきました。しかし、人工授精技術ができるまでは種苗生産が不安定であり、胎生魚であることから育種も進んでいませんでした。また、雄と雌で成長スピードが異なることから、出荷時の魚体サイズにばらつきが生じ、小型の個体を選別して育成期間を延長しなければならないなど、非効率的な生産工程がネックとなり、養殖事業が拡大しませんでした。本研究グループは、これまでクロソイ種苗を安定して生産できる独自の人工授精技術開発を進め、養殖における育種基盤を提供してきました。
本研究では、遺伝的な雌(XX型)と雄(XY型)を見分けるDNA検査と性転換技術を用い、遺伝的には雌(XX型)でありながら精巣を持ち精子を作る成熟雄(偽雄)を新たに作出しました。次にこの偽雄から精子を取り出し、通常の雌親(XX型)に人工授精を施しました。この雌親は妊娠し、半年後に産仔しました。DNA検査の結果、産仔された仔魚は全て雌(XX型)であり、さらに育成を進めた結果、100%の個体が正常な卵巣を持つ雌魚であることが確認されました。
本研究の成果は、雄より雌が早く大きく育つクロソイにおいて、全雌種苗を用いた養殖生産を可能とするものであり、出荷サイズ統一と生産工程の効率化に対する貢献が期待されます。
なお、本研究成果は、2025年6月7日(土)公開のAquaculture誌にオンライン掲載されました。
論文名:Establishment of an all-female monosex population in black rockfish (Sebastes schlegelii) through an indirect feminization method(間接 的な雌化手法を用いた全雌単一性クロソイ個体群の作出)
URL:https://doi.org/10.1016/j.aquaculture.2025.742818
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