2025年4月1日
ポイント
●水素生成能の高い海洋細菌の存在意義を、ゲノム比較、網羅的遺伝子発現、細胞生理により検討。
●発酵的水素生成の過程で生じるギ酸の再取り込み量が、細菌の高い水素生成と有意に相関。
●ギ酸が、高い水素生成能を有するマリン・ビブリオの進化に寄与してきたことを示唆。
概要
北海道大学大学院水産科学研究院の美野さやか助教、澤辺智雄教授、インド国立科学技術研究所のラメッシュクマー博士、ブラジル・リオデジャネイロ連邦大学のトンプソン教授らの研究グループは、発酵的水素生成能の高い海洋細菌であるビブリオ・トリトニアスを見いだし、ゲノム比較、網羅的遺伝子発現解析、生理比較などを行い、この細菌が高い水素生成を維持し続けている理由を検討してきました。一連の研究は、発酵的水素生成に寄与するギ酸水素リアーゼ複合体(FHL)遺伝子群が、他の細菌には類を見ない、美しく整然と並んだ単一遺伝子クラスターを形成していることや、発酵的水素生成の過程で生じるギ酸の再取り込みが高い水素生成に寄与することを見いだしています。
世界各国で、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルという目標が掲げられる中、エネルギー供給源の多様化を目的とした様々な研究開発が活発に続けられています。ここ四半世紀の間には、マリン・バイオリソースを活用するバイオ燃料生産技術に関する取り組みも進展しています。澤辺教授らのグループも、海洋細菌を生物触媒とし、大型海藻を原料とした水素生成技術の基盤構築を進めてきました。
本研究では、マリン・ビブリオの中でも、ある特定のグループの種のみが、効率の高い水素生成能を示すことから、その理由を、ゲノム比較、網羅的遺伝子発現応答及び微生物生理実験により調べました。その結果、ポーテレシエと名付けた系統のマリン・ビブリオは、発酵的水素生成を触媒するFHL複合体の形成に必要な20を超える遺伝子群が、美しく整然と並んだ単一の遺伝子クラスターを形成し、かつ他とは異なるニッケルのABC輸送体遺伝子を有していました。また、水素生成の原料となる糖は、解糖系を通過して代謝されることにより水素生成能が向上し、その発酵生成物の一種であるギ酸の生成量と細胞への再取り込み量の高さが、水素生成能の高さと関連することを見いだしました。これに加え、分子系統解析により、マリン・ビブリオの多くは、発酵的水素生成に関与する遺伝子を失っているか、遺伝子の構造が変化していることも分かりました。マリン・ビブリオは、発酵が生じやすい海洋動物の消化管や海底堆積物などでも見いだされることから、それらの環境で生成されるギ酸を解毒し、細菌細胞内のpH恒常性を保つために、一部の種によって、発酵的水素生成能が現在も維持されているものと考えています。このマリン・ビブリオは、発酵的水素生成のモデル細菌である大腸菌の1.5倍を超える水素生成効率を有し、かつ塩分が高い海水中でもその効率が維持されることから、本研究成果を活用した水素の生成基盤の開発が期待されます。
なお、本研究成果は2025年3月25日(火)、2024年6月19日(水)及び2022年10月17日(月)にCurrent Microbiology誌に公開されました。
論文名:Unexpected diversity in gene clusters encoding formate hydrogenlyase complex machinery in Vibrionaceae correlated to fermentative hydrogen production(マリン・ビブリオが有するギ酸水素リアーゼ複合体遺伝子の予想を超えた多様性と発酵的水素生成との関連)
URL:https://doi.org/10.1007/s00284-025-04176-3
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