2025年3月6日
ポイント
●新規マリン・プロバイオティクスであるスルフィトバクターのマナマコに対する成長促進効果を検討。
●稚ナマコの脂質やプロテオグリカンに関連する一部の遺伝子の発現が有意に上昇。
●稚ナマコの主たるストレス応答遺伝子の多くが発現誘導されていないことを発見。
概要
北海道大学大学院水産科学院修士課程2年の工藤梨花氏、同大学大学院水産科学研究院の美野さやか助教、澤辺智雄教授、IUF-Leibniz Research Institute for Environmental MedicineのNguyen博士、Rossi博士、北海道立総合研究機構水産研究本部函館水産試験場の酒井勇一主任主査らの研究グループは、マナマコの成長を促す新規な海洋細菌の稚ナマコに対する効果を調べるため、網羅的な遺伝子発現解析を行いました。その結果、このプロバイオティクスは餌料に不足している栄養を補助しながら、稚ナマコをストレスの少ない生理状態に維持していることが示唆されました。
マナマコは乱獲などによって天然資源が減少しています。北海道では、酒井主任主査らの尽力により、マナマコの種苗生産手法や良質な稚仔用餌料の開発がなされ、その資源の維持・拡大に貢献しています。しかしながら、マナマコは成長が遅く、かつ成長初期の成長格差や減耗は、その種苗の安定生産に向けた改善点であり、特に、成長を促す新たなプロバイオティクスの発見が切望されていました。澤辺教授らの研究グループは、稚マナマコの成長を促す新たなプロバイオティクスを発見したことから、これの効果的な利活用に向け、作用機序の理解に向けた研究を進めてきました。
本研究では、新規なプロバイオティクスであるスルフィトバクターを餌料に混合して投与した稚マナマコの網羅的な遺伝子発現応答を調べました。この解析には、Nguyen博士及びRossi博士が開発したトランスクリプトーム解析のパイプラインであるDusselporeTMを活用しました。その結果、スルフィトバクターを投与した稚ナマコでは、脂質やプロテオグリカンの代謝に関連する一部の遺伝子の発現が有意に高まっていました。また、興味深いことに、スルフィトバクターの投与は、稚ナマコの主たるストレス応答タンパク質遺伝子の多くを発現誘導していませんでした。本菌は、マナマコのパイオニア微生物の一種であることから、共生的な関係が成立しているものと考えています。本研究成果は、プロバイオティクスを効果的に活用したマナマコの種苗生産の高度化が期待されます。
なお、本研究成果は2025年2月26日(水)にCurrent Microbiology誌に公開されました。
論文名:Deciphering probiotic effects of Sulfitobacter pontiacus strain BL28 on the host sea cucumber Apostichopus japonicus(スルフィトバクター・ポンティアカスBL28株のマナマコに対する成長促進効果の理解)
URL:https://doi.org/10.1007/s00284-025-04138-9
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