2025年2月20日
ポイント
●二つの遺伝子の活性化により魚の胚の細胞から生殖細胞をつくり出すことに成功。
●人工的につくり出した生殖細胞から機能的な精子と卵が産生されることを確認。
●借腹生産技術やゲノム編集技術の効率化に期待。
概要
北海道大学大学院水産科学研究院の西村俊哉助教、藤本貴史教授らの研究グループは、魚の初期胚の細胞から人工的に生殖細胞をつくり出す技術の開発に成功しました。
生殖細胞は、将来、卵や精子になる細胞です。生き物が次の世代に命を繋げるために欠かせない細胞ですが、これらがつくられる仕組みの多くは謎に包まれていました。研究グループは、メダカを用いた研究によって、生殖細胞をつくる上で鍵となる二つの遺伝子「dnd1」と「nanos3」を同定しました。これら二つの遺伝子をメダカの初期胚の細胞で活性化させ、それらの細胞を他のメダカ胚に移植したところ、驚くべきことに、移植したほぼ全ての細胞が生殖細胞と同様の特性を持ち、将来の精巣と卵巣になる生殖腺に定着しました。その結果、大量の生殖細胞を持ったメダカ胚が作出されました。このメダカが成長すると、妊性を持ったオスとメスとなり、次世代のメダカが誕生しました。このことは、dnd1とnanos3遺伝子の活性化によってつくられた生殖細胞から機能的な精子と卵が産生されたことを意味しています。さらに、研究グループは、生殖細胞をつくる技術とゲノム編集技術を組み合わせて、効率的に遺伝子の操作ができる手法も開発しました。
近年、マグロのように飼育が難しい魚や絶滅危惧種の精子と卵を、飼育が容易な魚につくらせる「借腹生産」技術の開発が進められています。従来、効率的な借腹生産のためには、胚や生殖腺から生殖細胞を選別・濃縮する必要があり、その工程には高度な技術を要しました。本研究で開発した生殖細胞をつくる技術は、受精卵へdnd1とnanos3 mRNAを顕微注入すれば、細胞の選別なしに細胞移植が可能なため、簡便で効率的な借腹生産技術に繋がります。
なお、本研究成果は、2025年2月8日(土)公開のiScience誌に掲載されました。
論文名:Generation of primordial germ cell-like cells by two germ plasm components, dnd1 and nanos3, in medaka(Oryzias latipes)(生殖質の構成因子dnd1とnanos3によるメダカ始原生殖細胞様細胞の作出)
URL:https://doi.org/10.1016/j.isci.2025.111977
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