2025年2月7日
ポイント
●致死的一倍体の生殖細胞が、移植先の二倍体生殖腺で正常な精子になることを証明。
●一倍体生殖細胞を用いることで遺伝的に同一なクローン精子の生産に成功。
●クローン精子を利用した遺伝的に均一な集団は効率的な養殖生産に貢献しうる。
概要
北海道大学大学院水産科学院博士後期課程の長坂剛志氏(当時)、同大学大学院水産科学研究院の藤本貴史教授、愛媛大学南予水産研究センターの斎藤大樹准教授(元北海道大学大学院水産科学研究院)、北海道大学の山羽悦郎名誉教授、荒井克俊名誉教授らの研究グループは、一倍体の生殖細胞から遺伝的に同一なクローン精子を形成する技術の開発に成功しました。魚類におけるクローン精子の作出は、遺伝的に均一な養殖魚の種苗生産に貢献するだけでなく、一倍体細胞を利用した新たな育種技術開発への応用が期待されます。魚類の一倍体は胚発生異常により致死性であり、遺伝的に均一な精子を得るためには、従来は人為的染色体倍加により完全同型接合二倍体(倍加半数体)とする必要がありました。しかし、完全同型接合二倍体の生存性は極めて低いため養殖への応用には至りませんでした。
研究グループは、個体としては致死性の一倍体が、細胞としては生存性を示すことに着目しました。一倍体細胞は生存性の二倍体宿主に移植されると、移植先の宿主細胞と同様に分化します。そこで、研究グループは生殖細胞に分化する運命を持つ始原生殖細胞に着目し、一倍体胚の始原生殖細胞を生存性の二倍体宿主に移植することで、一倍体生殖細胞の配偶子への分化能力を解析できると考えました。
体外受精をする魚類では卵や精子の核を紫外線等で簡単に不活性化することができるため、卵あるいは精子の遺伝情報のみを持つ一倍体の胚を誘起することができます。ゼブラフィッシュの一倍体の始原生殖細胞を不妊化した生存性の二倍体に移植してキメラを作出したところ、このキメラでは一倍体生殖細胞を持つ精巣が形成され、成熟したオスのキメラからは一倍体の生殖細胞に由来する受精能力を持つ精子が形成されました。そして、遺伝解析より一倍体生殖細胞に由来する精子は遺伝的に全く同じであることが明らかとなりました。
本研究で開発したクローン精子生産技術では生殖系列キメラ法を使用するため、一倍体生殖細胞を移植する宿主として成長が早い個体や病気に強い個体を用いることで、従来の完全同型接合二倍体の低い生存性を克服し、遺伝的に同一のクローン配偶子の効率的生産が可能となりました。
本研究成果は、2025年1月6日(月)公開のBiology of Reproduction誌に掲載されました。
論文名:Isogenic fish sperm produced by transplanting gynogenetic haploid-derived germ cells(雌性発生半数体の生殖細胞移植による遺伝的に同一な魚類精子の生産)
URL:https://doi.org/10.1093/biolre/ioaf001
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