2024年12月25日
ポイント
●夏季に発生する著しく酸素濃度の低い「貧酸素水塊」の発生予測に成功。
●直前の冬季における大気と海洋の状態から半年後の酸素状態を予測。
●漁業関係者にとって極めて有益な情報になることが期待。
概要
北海道大学水産学部4年の三木智尋氏(研究当時)、同大学大学院水産科学研究院の阿部泰人准教授、大西広二助教、大木淳之教授、高津哲也教授の研究グループは、ホタテガイやタラ類、カレイ類、エビ類などの水産資源が豊富な北海道南部の噴火湾(海底水深約100m)において、夏季の底層に発生し、漁業に大打撃をもたらす「貧酸素水塊」の発生予測に成功しました。
貧酸素水塊は著しく水中の酸素濃度が低い水塊(2ml/l以下)です。世界中の閉鎖性水域(湖と海を含む)で発生し、一旦これが発生すると、呼吸で酸素を必要とするカレイをはじめとした底生魚類などの海洋生物が酸欠状態に陥り、特に遊泳能力が低く貧酸素水塊から逃れるのが困難な生物は大量死に至ります。そのため、漁業関係者も貧酸素水塊には大きな関心を持っています。
この水塊は、夏季に海底近くの底層で発生し、噴火湾でも数年に一度発生します。その原因は、生物による酸素消費量に対して酸素供給量が少ないことにあります。特に夏季は、海面が日射で暖められることで水が軽くなり、水柱が安定するため、表層を介した大気からの酸素供給が制限されます。
貧酸素水塊の発生予測を試みるべく、本研究では酸素濃度の回復過程に着目しました。冬季では大気からの冷却により表層の水が重くなって沈み、海底にまで達する深い対流が生じることで、表層から底層に酸素が供給されます。本研究は、この回復の程度が年によって異なり、湾外から親潮系の冷たい水が流入する年は、大気からの冷却が抑制されるとともに、親潮系の軽い水が海面を覆うことで対流が制限され、底層の酸素濃度が十分に回復せず、続く夏季に貧酸素が発生しやすくなることを突き止めました。つまり、半年前の大気と海洋の状態から、夏季の貧酸素発生予測が可能となります。
なお、本研究成果は、2024年12月16日(月)公開のJournal of Marine Systems誌に掲載されました。
論文名:Multi-month prediction of summertime hypoxia occurrence in the bottom of Funka Bay, Japan, with a focus on the wintertime surface heat flux(冬季の海面熱フラックスに着目した噴火湾夏季底層に生じる貧酸素水塊の数か月予測)
URL:https://doi.org/10.1016/j.jmarsys.2024.104035
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本研究で明らかになった噴火湾・冬季における鉛直方向の対流の相違。
冬季に親潮系水が流入した年は、底層まで達する対流が起こりづらく、
底層の酸素が十分回復しないため、続く夏季に貧酸素状態に陥りやすい。