2024年11月20日
ポイント
●精子頭部の大きさが、受精や雌性発生(母親ゲノムのみによる発生)に影響を与えることを発見。
●遠縁種の精子を用いて生存可能な雌性発生魚の作出に成功。
●水産育種における遠縁種の精子を用いた雌性発生技術の応用に期待。
概要
北海道大学大学院水産科学院博士後期課程2年の竹内 萌氏、川村祥史氏(研究当時修士課程2年)、博士後期課程3年の荒井那允氏、同大学大学院水産科学研究院の西村俊哉助教、藤本貴史教授、井尻成保准教授、同大学北方生物圏フィールド科学センターの高橋英佑技術専門職員、山羽悦郎名誉教授(研究当時教授)らの研究グループは精子の頭部の大きさが魚の雌性発生の成功に寄与することを明らかにしました。
一般的に有性生殖を行う生物では、卵と精子が受精することで、母親と父親のゲノム情報を持った個体が誕生します。一方、卵の中の母親ゲノムのみで発生を進行させる現象が自然界でも起こり、これを雌性発生と言います。例えば、日本人に馴染みのあるフナの多くは雌性発生を行い、集団のほとんどがメスで構成されています。雌性発生は有性生殖を行う魚種においても人為的に誘起することが可能で、水産育種において、メスの商品価値が高い魚の全メス生産に利用されています。人為的な雌性発生では、発生開始に精子による受精刺激が必須のため、紫外線照射によって父親ゲノムを不活性化した精子を卵に人工授精させ、母親ゲノムのみで発生を進行させます。しかしながら、雌性発生を引き起こす精子の特性については着目されていませんでした。そこで、研究グループは、メダカと遠縁の複数の魚種の精子を用いて、雌性発生の成功に寄与する精子の要因について調査しました。
紫外線照射によって父親ゲノムを不活性化したティラピア、ニジマス、キンギョ、ゼブラフィッシュ、ドジョウ精子とメダカの卵を人工授精させたところ、ティラピアとニジマスの精子のみがメダカの雌性発生を誘起でき、そのメダカ胚は生存可能であることが明らかとなりました。さらに、精子の形態を観察するとティラピアとニジマスの精子の頭部サイズは、キンギョやゼブラフィッシュ精子よりも小さいことが分かりました。魚の卵は卵膜という薄い膜に保護されており、精子が卵に到達するための卵門と呼ばれる小さな穴が開いています。そこで、卵門サイズと精子の頭部サイズを比較したところ、雌性発生を誘起できたティラピアとニジマスの精子の頭部サイズは、メダカの卵門よりも小さいことが判明しました。
本研究で、遠縁種の精子を用いて生存可能な雌性発生魚の作出に成功しただけでなく、卵門に対する精子の頭部サイズという物理的要因が受精や雌性発生に影響を与えることを見出しました。これらの成果により、限られた時期にしか精子が取れない魚や個体サイズが小さく精子の採取が困難な魚における雌性発生の効率化が期待できます。なお、本研究成果は、2024年10月18日(金)公開のAquaculture誌に掲載されました。
論文名:The size of the sperm head influences the gynogenetic success in teleost fish(精子の頭部サイズが魚の雌性発生の成功に影響を与える)
URL:https://doi.org/10.1016/j.aquaculture.2024.741768
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