2024年11月6日
ポイント
●深海底熱水孔環境から高い亜酸化窒素(N2O)還元能を持つ新種細菌を発見。
●N2O還元時の遺伝子発現を経時的かつゲノムワイドに評価。
●N2O還元酵素遺伝子(nosZ)の発現と負の相関を示す転写制御因子を推定。
概要
北海道大学大学院水産科学院博士後期課程2年の土屋地郎氏(日本学術振興会特別研究員DC2)、同大学大学院水産科学研究院の美野さやか助教、澤辺智雄教授、理化学研究所バイオリソース研究センターの市橋泰範チームリーダー、ワシントン大学海洋学部のロバート・モリス准教授らの研究グループは、沖縄トラフ深海底熱水活動域から分離された亜酸化窒素(N2O)還元細菌の経時的なトランスクリプトーム解析により、高効率なN2O還元活性を支える遺伝子発現プロファイルを明らかにしました。
N2Oは二酸化炭素、メタンに次ぐ温室効果ガスであり、オゾン層破壊物質としても知られることから、その削減が強く求められています。自然界に見られる唯一の生物学的N2O除去反応として、脱窒が知られています。脱窒は、硝酸態窒素化合物を起点とする一連の還元反応で、その最終段階においてN2Oは温室効果を持たない窒素ガス(N2)へ還元されます。この反応はN2O還元酵素(N2OR; NosZ)を有する微生物特有の反応であることから、強いN2O還元活性を示す微生物資源の発掘が待たれています。
研究グループは、沖縄トラフ深海底熱水活動域から新規の好熱性細菌HRV44T株を分離し、近縁種よりもN2OをN2へ還元する能力が高いことを見出しました。さらに、少量のRNAからでも実施可能な遺伝子発現解析手法を構築し、経時的かつゲノムワイドな遺伝子発現解析を実施しました。HRV44T株のN2O還元条件下での遺伝子発現動態解析等から、本菌が、N2O非存在下でも高いレベルで脱窒に関わる遺伝子を発現させていることを明らかにするとともに、NosZをコードする遺伝子(nosZ)の発現は転写制御因子によって負の制御を受ける可能性を示しました。本研究成果は、N2O還元能を持つ微生物資源を地球環境浄化へ活用するための基礎知見となることが期待されます。
なお、本研究成果は、2020年8月15日(土)公開のiScience誌、及び2024年9月30日(月)公開のiScience誌に掲載されました。
論文名:Time course transcriptomic profiling suggests Crp/Fnr transcriptional regulation of nosZ gene in a N2O-reducing thermophile(経時的トランスクリプトームプロファイリングから推測されたN2O還元好熱菌のnosZ遺伝子のCrp/Fnr転写制御)
URL:https://doi.org/10.1016/j.isci.2024.111074
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