2024年10月22日
ポイント
●グリーンランドのイヌイットは海氷の下に漁具を広げるために金属板(カイト)を用いることを発見。
●カイトは水中をひらひらと舞い落ち、漁具を水平に数百メートル展開することを解明。
●気候変動により氷下漁業は効率的な漁船漁業に切り替わりつつあり、資源への影響が懸念される。
概要
北海道大学大学院水産科学院修士課程2年の田中健蔵氏、同大学大学院水産科学研究院の富安 信助教、藤森康澄教授、同大学低温科学研究所の杉山 慎教授、日下 稜博士研究員及び同大学北極域研究センターのエブゲニ ポドリスキ准教授の研究グループは、グリーンランド北西部におけるイヌイットの氷下延縄漁業に用いられる金属板(カイト)が水中でどのように動き漁具の展開に寄与しているのかを明らかにし、気候変動によって氷下漁業が漁船漁業に転換されることが水産資源の漁獲圧増加につながる可能性を報告しました。
グリーンランドでは、カラスガレイという魚が重要な水産生物資源であり、日本にもその多くが寿司ネタの「えんがわ」として輸出されています。この魚は、沿岸域では主に底延縄(そこはえなわ)という方法で漁獲されています。通常この漁業は、船で航行しながら漁具を水中に広げることで行われますが、グリーンランドでは約半年間も海が海氷に覆われるため、夏季以外は船での操業ができません。そこでイヌイットは海氷に穴を開けて漁具の先端にカイトを取り付けて水中に落とすことで氷下での延縄漁業を伝統的に行ってきました。しかしながら、カイトがどのように動き、延縄をどれほど広げることができるのかは詳細に理解されていませんでした。そこで研究グループは、現地の漁業者と協力し加速度計を使った計測実験を行いました。その結果、カイトを取り付けた漁具を海中に投下すると、カイトがひらひらと舞い落ちるフラッタリングに似た運動をしながら水平に漁具を数百メートル展開することを明らかにしました。この展開範囲は夏季の漁船漁業のものと比べると非常に小さく、冬季の氷下漁業がカラスガレイの資源に与える影響は比較的小さい可能性が示唆されました。一方でグリーンランドでは昨今の気候変動の影響によって海氷の形成が不安定になり、氷の上で行われる漁業や狩猟が失われつつあります。氷下漁業についても将来的には効率的な漁船漁業への転換が起きると予測されており、カラスガレイの資源への影響が懸念されます。
本研究成果は、2024年10月7日(月)公開のFisheries Research誌にオンライン掲載されました。
論文名:Artisanal longline fishing for Greenland halibut (Reinhardtius hippoglossoides) operated under sea ice using a metal plate kite in northwest Greenland(グリーンランド北西部における金属板カイトを用いた海氷下でのカラスガレイの伝統延縄漁業)
URL:https://doi.org/10.1016/j.fishres.2024.107203
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