2024年1月24日
ポイント
●太平洋側北極海の動物プランクトンサイズ組成を画像解析装置ZooScanにより解析。
●海氷融解の早い年に、小型な動物プランクトンが増加することを発見。
●小型動物プランクトンの優占による高次捕食者へのエネルギー転送効率の低下を示唆。
概要
北海道大学大学院水産科学院修士課程1年の熊谷信乃氏、同大学院水産科学研究院の松野孝平助教、山口 篤准教授らの研究グループは、海氷融解の早い2018年の北部ベーリング海で、小型動物プランクトンの増加とそれに伴う生態系内の高次生物へのエネルギー転送効率と生産性の低下を明らかにしました。
近年、北部ベーリング海では温暖化による海氷融解の早期化が報告されており、2018年は最も融解時期が早い年でした。自ら動く魚類と異なり、水中を漂うプランクトンは、海氷融解のような気候変動の影響を受けやすい生物です。これまでの研究で、2018年に植物プランクトンブルームの遅延、動物プランクトンの群集組成の変化が報告されていますが、生態系内のエネルギー転送がどのように変化していたのかについては十分に理解されていませんでした。そこで研究グループは、海氷融解が平年並みであった2017年と、2018年の夏季に、北部ベーリング海における動物プランクトン群集のサイズ組成を調査しました。その結果、小型種の増加、それに伴うエネルギー転送効率と生産性の低下を発見しました。これにより海氷融解早期化が、食物連鎖を支えるプランクトンを変化させ、魚類や海鳥などの高次捕食者へ悪影響を及ぼしている可能性が高いことを明らかにしました。
本研究の成果は、海氷変動によって、生態系内のエネルギーフローが変化する過程を明らかにしているため、今後の地球温暖化に対する海洋生態系の将来予測の精度向上に貢献する知見となります。
なお本研究成果は、2023年11月29日(水)公開のFrontiers in Marine Science誌にオンライン掲載されました。
論文名:Zooplankton size composition and production just after drastic ice coverage changes in the northern Bering Sea assessed via ZooScan(北部ベーリング海における著しい海氷変動下での動物プランクトン群集のサイズ組成と生産性:ZooScanによる解析)
URL:https://doi.org/10.3389/fmars.2023.1233492
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本研究成果の概念図。海氷融解が早かった2018年は、通常年の2017年と比べて、植物プランクトンブルームが遅く、7月でも小型でエネルギー含有量の少ない動物プランクトンが多かった。小型種は大型のヤムシ類に捕食されないと、魚類が摂餌することができない。つまり、小型種が多いことにより、低次生態系内の食う-食われる回数が増え、エネルギーロスが増加し、結果的に高次生物へのエネルギー転送効率が低下することが考えられる。