2023年11月21日
ポイント
●東太平洋海膨の深海底熱水活動域の熱水試料から独立栄養性の新規細菌の獲得に成功。
●好熱性として知られていたHydrogenimonas属に属する初めての常温性細菌種。
●病原性細菌を含むイプシロンプロテオバクテリアの進化プロセスの理解への寄与が期待。
概要
北海道大学大学院水産科学研究院の美野さやか助教、米国ウッズホール海洋研究所Stefan Sievert博士らの研究グループは、東太平洋の深海底熱水活動域の一つであるCrab Spa熱水サイトから新規細菌を分離しました。ゲノムや生理学的特徴から、この細菌は水素の他に還元型硫黄をエネルギー源とする常温性の独立栄養性細菌の新種であることを明らかにしました。分離源の熱水サイトにちなみ、Hydrogenimonas cancrithermarumと命名することを提案しました。
イプシロンプロテオバクテリア綱と呼ばれる微生物グループに属する細菌種のうち、独立栄養性の細菌種は、熱水孔環境の生態系の一次生産者を担っています。また、従属栄養性の細菌種には、ピロリ菌やカンピロバクターといった病原性細菌が含まれることも知られています。本グループに属するHydrogenimonas属は、熱水孔環境から分離された好熱性細菌2種のみで構成された分類群で、分子系統解析から、イプシロンプロテオバクテリアの中で、もっとも常温性細菌や病原性細菌に近縁な好熱性細菌グループとして位置付けられています。
今回、研究グループは、ウッズホール海洋研究所が運用する有人潜水調査艇Alvin号を用いた潜航調査で、Crab Spa熱水サイトの低温熱水試料から、新規のHydrogenimonas属細菌ISO32株を取得しました。また、培養実験より、ISO32株はHydrogenimonas属において初めて常温性を示す分離株であり、近縁種を含めたゲノム解析から、Hydrogenimonas属及び常温性のイプシロンプロテオバクテリアは病原性の有無、栄養的分類に関わらず、Pta-AckA代謝に関わる遺伝子を有していることを明らかにしました。今後、Hydrogenimonasや独立栄養性の細菌における本代謝経路の機能の理解が必要ですが、本新種の発見は、イプシロンプロテオバクテリアの進化の理解に貢献することが期待されます。
なお、本研究成果は、2023年11月3日(金)公開のInternational Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology誌に掲載されました。
論文名:Hydrogenimonas cancrithermarum sp. nov., a hydrogen- and thiosulfate-oxidizing mesophilic chemolithoautotroph isolated from diffuse-flow fluids on the East Pacific Rise, and an emended description of the genus Hydrogenimonas(Hydrogenimonas cancrithermarumとして水素、チオ硫酸酸化常温性独立栄養細菌の提唱及び、Hydrogenimonas属の改訂)
URL:https://doi.org/10.1099/ijsem.0.006132
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新種細菌が発見されたCrab Spa熱水サイト(Photo courtesy of Stefan Sievert, WHOI/NSF/HOV Alvin, © Woods Hole Oceanographic Institution)