2023年10月23日
ポイント
●夏季の南極海における珪藻類の種組成と優占種のサイズ組成を水産庁漁業調査船開洋丸により調査。
●海氷融解時期の変化により、種組成はほとんど影響を受けないが、生活史は変わることを解明。
●気候変動による南極海の海洋生態系への影響の理解に大きく貢献。
概要
北海道大学大学院水産科学研究院の松野孝平助教、山口 篤准教授、同大学北方生物圏フィールド科学センターの野村大樹准教授、東京海洋大学の村瀬弘人准教授、国立研究開発法人水産研究・教育機構水産資源研究所の佐々木裕子研究員らの研究グループは、南極海東インド洋区における海氷変動が、珪藻類の種組成に影響を与えないが、優占種の生活史を変え得ることを明らかにしました。
珪藻類は、海洋における植物プランクトン相に最優占し、海洋生態系を支える重要な生物です。これまでの研究で、南極海東インド洋区の珪藻類は、物理的な湧昇や、海氷融解による鉄の供給の影響を受けることが知られています。しかし、近年の海氷変動が珪藻類にどのように影響を与えているかについては十分に理解されていませんでした。そこで研究グループは2018/2019年夏季に、南極海東インド洋区の東経90~150度に及ぶ広い海域にて水産庁漁業調査船「開洋丸」により珪藻類の調査を行い、珪藻類の種組成は海氷とほとんど関係はなく、栄養塩濃度と密接に関係していたこと、優占したフラジラリオプシス属(Fragilariopsis spp.)の細胞サイズは海氷融解からの経過日数で変化することを明らかにしました。
本研究の成果は、南極海での海氷変動による珪藻類の応答を明らかにしており、南極海海洋生態系の将来予測の精度向上に貢献する知見となります。
なお本研究成果は、2023年9月6日(水)公開のProgress in Oceanography誌にオンライン掲載されました。
論文名:Responses of diatom assemblages and life cycle to sea ice variation in the eastern Indian sector of the Southern Ocean during austral summer 2018/2019(2018/2019年夏季の南極海東インド洋区における海氷変動に対する珪藻類群集とその生活史の応答)
URL:https://doi.org/10.1016/j.pocean.2023.103117
詳細はこちら
優占した珪藻類フラジラリオプシス2種(Fragilariopsis curtaとFragilariopsis kerguelensis)の細胞サイズと海氷融解日からの経過日数との関係を一般化加法モデルで解析した結果。両種とも、60日~90日にかけて急激に小型化していることが分かる。