2023年10月3日
ポイント
●2022年の函館市臼尻町産の紅藻”ダルス”から、新たな調製法で得たMAAsを過去の結果と比較。
●3月の試料で最も高いMAAs含有量を示し、調製法が月別変動に影響を受けないことが判明。
●異なる抽出溶媒容量と抽出回数による影響を検討し、効率的なMAAs調製法の確立に貢献。
概要
北海道大学大学院水産科学院修士課程2年の山本竜矢氏、同大学大学院水産科学研究院の岸村栄毅教授と熊谷祐也准教授らの研究グループは、紫外線防御物質であるマイコスポリン様アミノ酸(MAAs)の調製法を用いて2022年1月~5月の期間で函館市臼尻町から採れたダルス(Devaleraea inkyuleei)由来のMAAs含有量について月別変動を調査し、過去の結果と比較しました。そして、異なる抽出溶媒量によるMAAsの抽出量と抽出残渣に残存するMAAs量について調べました。
ダルスは寒い地域に生育する紅藻で、日本では北海道から岩手県にかけて生育しています。また、MAAsは海洋生物が作り出す天然の紫外線防御物質で、安全で環境に優しい化合物として注目されています。しかし海洋生物の生体内にMAAsは微量しか含まれていません。先行研究によって、含有量は季節や環境要因によって変動することが示されました。本研究では、従来のMAAs調製方法を改善し、抽出期間を7日間から3日間へと短縮、抽出溶媒を化粧品配合禁止成分であるメタノールからエタノールへと変更しました。このような新たな調製法を取り入れて、低利用資源であるダルスのMAAs含有量の月別変動を調査することにしました。
本研究で調査した2022年のダルスは、過去3年間の結果と同様に2月から3月にかけて最大となり、特に3月の試料で最も高いMAAs含有量を示しました。また、新たな調製法を用いてもMAAsの月別変動の調査に影響しないことを確認しました。調製法の改善により、抽出溶媒を試料に対して40倍容量にしたところ、20倍容量の場合と比較して1.3倍多くのMAAsを調製できました。抽出残渣にはMAAsが残存しており、40倍容量で2回以上の抽出を行うことで多くのMAAsを回収できることを示しました。
本研究は、低利用資源であるダルスの有効利用と環境に優しい天然の紫外線防御物質MAAsの産業利用の推進に貢献することが期待されます。
なお、本研究成果は、2023年9月7日(木)にPhycology誌でオンライン掲載されました。
論文名:Mycosporine-like Amino Acids from Red Alga Dulse (Devaleraea inkyuleei) : Monthly Variation and Improvement in Extraction(紅藻ダルス由来マイコスポリン様アミノ酸の月別変動及び抽出方法の改善)
URL:https://doi.org/10.3390/phycology3030026
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試料として用いた函館市臼尻町のダルス
海外では食経験のある海藻だが、日本国内ではほとんどが未利用。また、図のように昆布養殖のロープに繁茂し光を遮ることから邪魔物として除去されている。ダルスには複数の有用な化学成分が豊富に含有されることが明らかになってきている。