2023年9月12日
ポイント
●マナマコ種苗生産の障害となる胃萎縮症を発症した幼生のメタゲノム解析を初めて実施。
●健全な幼生の微生物群集構造と比べ、胃萎縮症を発症した幼生で占有率が有意に高い微生物群を把握。
●その中で、魚介類に対して病原性を示すTenacibaculum属を胃萎縮症の一因として示唆。
概要
北海道大学大学院水産科学院博士後期課程3年の俞 隽文氏(北海道大学DX博士人材フェローシップ生)、同大学大学院水産科学研究院の澤辺智雄教授、北海道立総合研究機構水産研究本部函館水産試験場の酒井勇一主任主査らの研究グループは、メタゲノム技術を用い、マナマコの種苗生産の障害となる胃萎縮症の原因微生物を初めて推定しました。
高たんぱく質で栄養価が高いマナマコは、アジア圏で取引が多くなっている水産物の一種ですが、乱獲などによって天然資源が著しく減少しています。マナマコの一大産地でもある北海道では、酒井主任主査らの尽力により、開発されたマナマコの種苗生産技術が実用化されています。しかし、浮遊幼生期に原因不明の疾病による減耗が生じることがあり、その安定的な種苗生産に向け、多面的な研究が必要不可欠でした。
マナマコ幼生の胃萎縮症は、浮遊幼生期に起こる疾病の一つですが、今まで原因究明が行われておらず、有効な防除法はありません。本研究では、種苗生産施設にて、胃萎縮症を発症したマナマコ幼生の微生物群集構造を、メタゲノム技術を用いて、初めて明らかにしました。その結果、健康なマナマコ幼生の微生物群集構造に比べ、胃萎縮症のマナマコ幼生では、6種の細菌と2種の真核微生物の占有率が有意に増加していました。このうち、Tenacibaculum属は、魚介類の病原性種を含む細菌であることから、胃萎縮症の一因として見いだされました。また、追加実験として、同施設にて過去にウニの病原菌として単離されたTenacibaculum属細菌を用い、マナマコ幼生に人為感染実験を行ったところ、胃萎縮症様症状が再現されたため、この菌群が一因であると示唆されました。今後、マナマコ幼生からの原因細菌の分離とその感染動態の解明及び防疫対策が必要になりますが、本研究成果はマナマコ種苗の安定的な生産基盤の構築に対する貢献が期待されます。
なお、本研究成果は2023年8月30日(水)にFrontiers in Marine Science誌に公開されました。
論文名:Inferring potential causative microbial factors of intestinal atrophic disease in the sea cucumber Apostichopus japonicus(マナマコ幼生の胃萎縮症の潜在的な微生物要因の推測)
URL:https://doi.org/10.3389/fmars.2023.1225318
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