2023年8月31日
北海道大学
海洋研究開発機構
ポイント
●種特異的な環境DNA解析手法により、北極海生態系の鍵種であるホッキョクダラの分布を推定。
●北極海におけるホッキョクダラの分布が低水温の水塊と密接に関係していることを実証。
●温暖化と海氷減少に伴う北極海生態系の変化の解明に貢献。
概要
北海道大学大学院水産科学研究院の川上達也研究員、笠井亮秀教授、海洋研究開発機構の山崎 彩氏らの研究グループは、ベーリング海から北極海に至る広範囲にわたって、北極海の生態系の鍵種となっているホッキョクダラの分布を調べました。本研究では、生物を直接捕獲せずに分布や生物量を推定することのできる、生態系にやさしい手法である環境DNA解析手法を用いました。
解析の結果、ホッキョクダラの環境DNAは、北緯75°の海氷縁辺部から北緯70°付近の表層から多く検出されましたが、ベーリング海峡以南ではほとんど検出されませんでした。また、環境要因との関連を調べたところ、ホッキョクダラの環境DNAは水温 -1℃~5℃の場所から検出されていたことが分かりました。海氷が溶けた低水温・低塩分の海域と、太平洋側の底層からベーリング海峡を通過して北極海に流入する海水に覆われる海域における環境DNAの検出確率と濃度が高いことから、ホッキョクダラは北極海の特に低水温の水塊付近に生息していることが分かりました。これらの結果は、これまでに知られているホッキョクダラの生態とも整合しています。
従来の研究手法では、魚を直接捕獲するため、短期間のうちに広範囲にわたる多地点の調査をすることは不可能でしたが、本研究で用いた環境DNAは、調査の現場では採水と濾過だけを行うため、調査範囲や調査期間が限られる北極海の調査に極めて有用です。また、地球温暖化に伴う海氷の減少により、北極海の環境は急速に変化しているため、北極海生態系のモニタリングは重要です。本研究の成果は、北極域生態系における鍵種の分布の効率的なモニタリング手法を示しただけでなく、地球温暖化のインパクトを解明する上で大きく貢献することが期待されます。
なお、本研究の成果は、2023年8月30日(水)公開のFrontiers in Marine Science誌にオンライン掲載されました。
論文名:Distribution and habitat preference of polar cod (Boreogadus saida) in the Bering and Chukchi Seas inferred from species-specific detection of environmental DNA(種特異的な環境DNA検出によって推定された、ベーリング海とチュクチ海におけるホッキョクダラの分布と生息場所選好性)
URL:https://doi.org/10.3389/fmars.2023.1193083
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