2023年8月23日
ポイント
●西部北太平洋亜寒帯域の時系列観測定点に出現したヤムシ類の生態調査を実施。
●肉食性動物プランクトンのヤムシ類は種により異なる分布層を示し、ニッチ分割をすることが判明。
●出現個体数に多いユークローニア属は、遺伝的に同一な種群として扱えることを示唆。
概要
北海道大学大学院水産科学研究院の山口 篤准教授らの研究グループは、西部北太平洋の亜寒帯域の定点K2において、肉食性動物プランクトンとして最優占するヤムシ類について、鉛直分布と主要種の個体群構造を明らかにしました。
西部北太平洋の亜寒帯域の定点K2の水深0-1,000 mには、2属3種のヤムシ類が出現しました。各種の分布水深は互いに異なっており、肉食性のヤムシ類が種により分布深度を変えるニッチ分割をしていることが明らかになりました。出現個体数の多いユークローニア属には、遺伝的に同一な種群が存在することが報告されています。本研究で初めて、同一の種群としての個体群構造を解析したところ、発育に伴い分布水深が深くなる生態を持つことが明らかになりました。これは、大型な動物プランクトンであるヤムシ類は、魚類などの視覚捕食を避けるために、大型な個体ほど照度が低く、視覚的に目立たない深海に分布するものと解釈することができます。
本研究は、これまで知見の乏しかった肉食性動物プランクトンのヤムシ類の生態を、亜寒帯域に設けられた時系列観測定点にて、水深0-1,000 mにて昼夜及び全季節を通して明らかにしたもので、西部北太平洋の表層から深海に及ぶ海洋生態系の理解を深める重要な知見です。
なお、本研究成果は、2023年7月31日(月)にOceans誌でオンライン掲載されました。
論文名:Vertical distribution, community and population structures of the planktonic Chaetognatha in the western subarctic Pacific: Insights on the Eukrohnia species group(西部北太平洋亜寒帯域における浮遊性ヤムシ類の鉛直分布、群集構造及び個体群構造:ユークローニア属種群に関する考察)
URL:https://doi.org/10.3390/oceans4030018
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西部北太平洋亜寒帯域の定点K2におけるヤムシ類の遺伝的に同一な種群とされるユークローニア属種群の出現個体数と分布水深の割合。各採集日の体長には2~4峰のモードが存在し、複数の世代が同時に存在することを示している。また体長が大型な個体ほど分布水深の深いことが分かる。