国立大学法人北海道大学(所在地:北海道札幌市、総長:寳金清博、以下「北海道大学」)と日本航空株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役社長:鳥取三津子、以下「JAL」)は、2022年6月、北海道を舞台に各種社会課題の解決に取り組み、サステナブルな社会創りをリードするために連携協定を締結(*1)しました。このたび協業の具体的な取り組みの一環として、株式会社北海道エアシステム(本社:北海道札幌市、代表取締役社長:武村栄治、以下「HAC」)の航空機1機に機外カメラを搭載し、世界初となる(*2)定期便航空機を活用した赤潮モニタリングを2025年夏より開始することが、令和6年11月12日にプレスリリースされました。
(*1)2022年6月7日付プレスリリース「北海道大学とJALが連携協定を締結」
(*2)2024年11月12日時点、北海道大学、JAL、HAC調べ。
【プレスリリース】北海道大学とJALグループが、世界初の定期便航空機を活用した海洋観測を開始します~2025年夏より、HAC機に機外カメラを装着し、赤潮モニタリングを実施~
民間航空機を用いた赤潮モニタリング
大学院水産科学研究院 笠井亮秀教授・髙木力教授・松野孝平助教
水産学部 飯田高大助教
■目標
民間航空機に搭載したマルチスペクトルカメラを用いて有害赤潮をいち早く検知し,その情報を自治体,試験研究機関,漁業者等に提供することで赤潮被害を軽減します。
■背景と目的
2021年秋季に道東で大規模な赤潮が発生し(図1),その被害額は 90億円以上にのぼりました。また九州では,毎年大きな被害が出ています。
2010年以降,北海道でも有害赤潮が発生するようになりました。地球温暖化に伴い,北海道周辺の水温は上昇傾向にあり,今後も赤潮の発生が増加する恐れがあります。現在の技術では赤潮の発生を予測することは困難ですが,小規模な赤潮なら抑制することはできます。つまり,赤潮の被害を抑えるためには,発生初期の小規模な赤潮をいち早く発見することが重要となります。
◇図1
■背景:地球温暖化と北海道における赤潮
有毒赤潮は暖水性のため,これまで西日本を中心に被害が報告されていました。しかし温暖化により,近年は北海道周辺海域の水温が上昇しており(図2),赤潮が頻発するようになりました(図3)。
IPCCの報告書によれば,今後も温暖化は進行すると予想されます。これは北海道周辺でも,今後赤潮が増加することを意味しており,今のうちに被害軽減のための対策をとっておくことが必要です。
◇図2
◇図3
■赤潮のモニタリングは民間航空機が最適
◇従来のモニタリング手法と本研究の比較
これまでも,赤潮の発生を捉えるためのモニタリングが行われてきました。しかし従来の手法では,高度な技術と手間を要するものが多く,詳細なモニタリングができないという問題がありました。そこで本研究では,民間の旅客機にカメラを取り付けて赤潮をモニタリングするという手法をとっています。旅客機は,特に離発着時は低い高度を一日に何度も飛行しますから,時空間的に高解像度で海面を撮影することができます。
■マルチスペクトルカメラを用いた赤潮の検知
カレニアミキモトイ等の有害赤潮の原因種は,珪藻などに比べて高波長の光の蛍光強度が高いことが知られています。複数の波長の光を捉えられるマルチスペクトルカメラを用いて海面を撮影し,波長ごとの画像を解析することで,有害赤潮プランクトンの分布を推定することができます。
■今後の展望
まずは北海道エアシステムのATR機にカメラを搭載して,函館湾のモニタリングを開始します。それが軌道に乗れば,噴火湾や奥尻島近海,利尻水道など道内の他の海域もモニタリングしていきたいと思います。将来的には,赤潮の被害が大きい西日本への展開も視野に入れています。
また,撮影する光の波長を変えれば,大型海洋動物を上空から見つけることもできます。海藻や海草の生育状況も捉えられるので,ブルーカーボンによるCO2吸収量の評価にも適用可能です。さらに本手法は,現在深刻な環境問題となっている海ゴミ調査にも威力を発揮するでしょう。
本事業は,世界で初めて民間航空機を用いて海洋環境をモニタリングしようとするものであり,北海道のサステナブルな社会創りに貢献するものと言えます。