2024年4月2日
ポイント
●河川生物の流下が、移動に基づく進化機構「空間的選別」を引き起こす可能性に着目。
●イワナの稚魚で、着底行動を示す個体が流下しにくいことを水路実験で実証。
●高い堰堤や滝の上流で、着底傾向の強い稚魚が空間的選別によって進化することを示唆。
概要
日本学術振興会特別研究員PDの山田寛之博士(研究当時:北海道大学大学院水産科学院博士後期課程3年)と北海道大学大学院水産科学研究院の和田 哲教授は、北海道南部に生息するイワナの稚魚で水路実験を行い、着底行動を示す稚魚が、長時間活発に遊泳する稚魚よりも流下しにくいことを実証しました。先行研究の成果もあわせると、野外の河川上流域においては、遊泳する傾向の強い稚魚が流下することで、着底する傾向の強い稚魚がその比率を高めていくような独自の進化が起こっていることが示唆されます。
歩行や飛翔など、生物の移動による進化機構は、近年「空間的選別」と名付けられ、特に外来種が侵入していく過程で生じるものが注目されています。ただ、空間的選別による進化は、移動した個体が元の場所に戻るとその進化が弱まるのが普通であり、あくまでも一時的な現象だという考え方が通説でした。しかし堰堤や滝の上流域の魚類では、段差の下流へ流下した個体が元の場所に戻ってくることはありません。そのため、空間的選別が弱まることなく長期的に持続すると考えられます。この点で、本研究成果は空間的選別の通説を覆す成果といえます。
本研究成果は、河川生物の進化に関する理解を深めると同時に、「受動的な空間的選別」という進化機構の可能性を提示することで、その適用範囲の拡張にも重要な貢献を果たすことが期待されます。
本研究成果は、2024年3月5日(火)公開のEcological Research誌にオンライン掲載されました。
論文名:Phenotype-dependent downstream dispersal under ordinary flow conditions in juvenile white-spotted char(イワナの稚魚における平常流量条件下での表現型依存的な流下傾向)
URL:https://doi.org/10.1111/1440-1703.12455
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行動観察水槽内で着底行動をとるイワナの稚魚