2023年7月14日
北海道大学
水産研究・教育機構
ポイント
●ヒメジャコガイの組織に褐虫藻特有の膜脂質DGCCが分布することを発見。
●シャコガイは褐虫藻からDGCCを受け取り、自らの膜脂質に変換・利用していることが判明。
●リンや窒素が少ないサンゴ礁でシャコガイが繁栄するメカニズム解明に期待。
概要
北海道大学大学院水産科学研究院の酒井隆一教授、水産研究・教育機構水産技術研究所の山下 洋主任研究員、日本大学生物資源科学部海洋生物学科の井上菜穂子准教授、北里大学の丸山 正客員教授らの研究グループは、サンゴ礁で繁栄する生物がどのような物質を作り、それをどのように利用しているのかを分析しました。
サンゴ礁海域には多種多様な生物が生息しています。しかし、サンゴ礁は「海の砂漠」といわれるほどリンや窒素などの栄養素が少なく、これらの生物を支える物質の流れの全容はいまだ解明されていません。この謎はチャールズ・ダーウィンが最初に提唱したことから「ダーウィンのパラドクス」とも呼ばれています。
そこで本研究グループは、サンゴ礁に生息する代表的な動物の一つであるシャコガイを用い、細胞膜を構成する成分である脂質(膜脂質)の分析を行いました。その結果、シャコガイは共生する褐虫藻からリンのない膜脂質であるDGCCを借りて、利用していることが明らかになりました。
本研究の成果は、微細藻特有の生存戦略をシャコガイも何らかの形で獲得したことを示唆しており、今後、他の貝類やサンゴにおいて同様の代謝が存在するのか、シャコガイにおけるDGCCの生理的意義、DGCC代謝の生化学的過程などを解明することで、サンゴ礁の生物がどのような進化の過程を経て「ダーウィンのパラドクス」に対峙してきたのかを解き明かすことが期待されます。
なお、本研究成果は、2023年7月10日(月)公開のiScience誌にオンライン掲載されました。
論文名:Smart utilization of betaine lipids in the giant clam Tridacna crocea(共生藻のベタイン脂質を巧妙に利用するヒメジャコガイの生存戦略)
URL:https://doi.org/10.1016/j.isci.2023.107250
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