2023年6月19日
ポイント
●亜熱帯域と亜寒帯域の定点における浮遊性多毛類の昼夜・季節・鉛直分布の海域間比較を実施。
●浮遊性多毛類の出現個体数、生物量及び群集構造が海域により大きく異なることが判明。
●浮遊性多毛類群集の海域間差は、海域による光透過性と沈降粒子量の差に関係すると推測。
概要
北海道大学大学院水産科学研究院の山口 篤准教授の研究グループは、西部北太平洋の亜寒帯域の定点K2と亜熱帯域の定点S1において、動物プランクトンとして出現するゴカイ類:浮遊性多毛類の群集構造の昼夜・季節・鉛直分布を明らかにしました。
浮遊性多毛類の属や種数は亜熱帯域の方で多いものの、年平均出現個体数及び生物量は亜熱帯域において非常に少なくなっていました。群集構造は、亜熱帯域では全ての層を通して肉食性種が優占し、表層にて出現個体数密度が多くなっていました。一方、亜寒帯域では表層に肉食性種、中層に粒子食性種が優占し、出現個体数は中層の約300mで多くなっていました。浮遊性多毛類群集の海域間差は、亜熱帯域では視覚捕食しやすさの指標である光透過性が高いことや、亜寒帯域では深海への沈降粒子量が多いことに関係すると考えられます。
本研究は、これまで知見の乏しかった浮遊性多毛類の生態を、亜熱帯域と亜寒帯域の2海域で明らかにしたもので、西部北太平洋の表層から深海におよぶ海洋生態系の理解を深める重要な知見です。
なお、本研究成果は、2023年6月13日(火)にJournal of Plankton Research誌でオンライン掲載されました。
論文名:Diel, seasonal, and vertical changes in the abundance, biomass, and community structure of pelagic polychaetes at the subtropical station S1 in the western North Pacific: Comparison with the results from the subarctic station K2(西部北太平洋亜熱帯定点S1における浮遊性多毛類の出現個体数、生物量及び群集構造の、日周・季節及び鉛直的変化:亜寒帯定点K2との比較)
URL:https://doi.org/10.1093/plankt/fbad023
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西部北太平洋亜寒帯域の定点K2(上)と亜熱帯域の定点S1(下)における、浮遊性多毛類の出現個体数(左)、生物量(中)及び、出現個体数に占める食性の異なる各種の種組成(右)の鉛直分布。
出現個体数は亜寒帯域では水深300 m付近にて高く、生物量は亜寒帯域にて常に多く、種組成は亜寒帯域では表層と深海で、優占種が変わるのに対し、亜熱帯域では全層を通して肉食性種が優占。