2023年5月10日
北海道大学
海洋研究開発機構
岡山大学
ポイント
●西部北太平洋における動物プランクトン、魚類やイカ類の炭素・窒素安定同位体比を測定解析。
●春季の亜寒帯域と移行領域における食物網構造は、海域により大きく異なることが判明。
●海域によって、深海への物質輸送過程や生産に用いる物質の起源が異なると推察。
概要
北海道大学大学院水産科学研究院の山口 篤准教授、海洋研究開発機構の野口真希主任研究員、岡山大学の兵藤不二夫教授らの研究グループは、西部北太平洋の亜寒帯域、移行領域及び亜熱帯域に及ぶ海域において、動物プランクトン、魚類やイカ類の炭素・窒素安定同位体比を測定解析して、海域や水深、プランクトンのサイズの違いが、海洋食物網構造に与える影響を明らかにしました。
本研究では、動物プランクトン、魚類やイカ類の炭素安定同位体比と窒素安定同位体比の分析により、食物網が隣接する海域で異なることが示されました。動物プランクトンの窒素安定同位体比は、亜熱帯域において、水深が増すにつれて増加する傾向が見られました。これは深海では上層から沈降してくる有機物を餌としていることの反映と考えられました。一方で、亜寒帯域や移行領域では、優占する動物プランクトン(大型カイアシ類のNeocalanus属)が、表層で成長した後に深海に潜るため、水深により窒素安定同位体比は異ならないと考えられます。また、表層の動物プランクトンの窒素安定同位体比は、高緯度ほど高い値を持ち、その傾向は動物プランクトンのサイズを通して一定であることが明らかになりました。低緯度にて窒素安定同位体比が低い値を持つ傾向は、空気中に存在する窒素を固定し利用できる植物プランクトン(シアノバクテリア)による影響を受けたものと推察されました。
本研究は、海洋食物網構造が緯度や水深によって異なることを、炭素・窒素安定同位体比から明らかにしたもので、西部北太平洋の海洋生態系の理解を深める重要な知見です。
なお、本研究成果は、2023年5月6日(土)にDeep-Sea Research I誌でオンライン掲載されました。
論文名:Vertical, spatial, size, and taxonomic variations in stable isotopes (δ13C and δ15N) of zooplankton and other pelagic organisms in the western North Pacific(西部北太平洋における動物プランクトンや他の海産生物の安定同位体比(δ13Cとδ15N)の鉛直、水平、サイズ及び分類群による変化)
URL:https://doi.org/10.1016/j.dsr.2023.104045
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2016年5月14-20日にかけて亜寒帯域(左)と移行領域(右)で採集された、動物プランクトン、魚類やイカ類の窒素安定同位体比(縦軸)と炭素安定同位体比(横軸)の関係。安定同位体比の値の違いは、海域による食物網構造の違いを反映。