ポイント
●海洋の物質循環の主要な駆動源である動物プランクトン糞粒の新しい定量法を開発。
●細かい目合いのプランクトンネット採集試料を画像イメージングスキャンして解析。
●野外における動物プランクトン糞粒の量やサイズの昼夜差の評価に世界で初めて成功。
概要
北海道大学大学院水産科学研究院の山口 篤准教授,松野孝平助教らの研究グループは,夏季の南部オホーツク海において水深0-1,000 m間を昼夜で層別採集した動物プランクトン試料を用いて,試料中に大量に出現した動物プランクトンの糞粒を対象として,野外における動物プランクトン糞粒の量とサイズに関する新しい解析手法を開発しました。
海洋の物質循環は地球環境変動に影響を及ぼします。海洋における物質循環は物理的な拡散に加えて,動物プランクトンが排泄した糞粒による沈降輸送が,駆動源として大きな役割を果たすことが知られています。これまで動物プランクトンの糞粒の量的な評価には,海洋の所定の水深にある一定期間係留して,上層からの沈降粒子を捕集するセジメントトラップが用いられてきました。しかしセジメントトラップによる捕集には,最低でも2~3日間の捕集係留期間が必要で,野外における動物プランクトン糞粒量やそのサイズに昼夜差があるのかという点は不明なままでした。研究グループは細かい目合い(63µm)のプランクトンネットによる層別採集を行い,得た試料を画像イメージングスキャナにより解析を行い,野外における動物プランクトン糞粒量とサイズの評価に成功しました。
本研究の成果は,海洋における物質循環の駆動源である動物プランクトン糞粒の正確な定量評価に繋がる手法として,海洋学における重要な知見となります。
なお,本研究成果は,2022年4月4日(月)公開のDeep-Sea Research Part I誌にオンライン掲載されました。
左上:多段式プランクトンネット(VMPS)。細かい網目合い(63 µm)による層別採集が可能。
左下:試料中に大量に出現し,優占した動物プランクトン糞粒。
右上:動物プランクトンを対象とする画像イメージングスキャナ(ZooScan)。糞粒の正確なサイズと数の定量が可能。
右下:動物プランクトン糞粒の蛍光顕微鏡写真。糞粒中に蛍光能を有する植物プランクトン細胞が星のように見える。
◇山口 篤 准教授
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