北海道大学大学院水産科学研究院の井上 晶教授,尾島孝男教授,同水産科学院博士後期課程(当時)西山竜士氏の研究グループは,微生物がアルギン酸の酵素分解によって生じる不飽和単糖由来DEHUを酸化的に代謝する経路をもつことを初めて明らかにしました。
●アルギン酸分解物のDEHUを還元する酵素が酸化反応も触媒することを初めて発見。
●細胞の還元力を消費せずにアルギン酸をα-ケトグルタル酸に代謝する未知の経路の全容を解明。
●アルギン酸を高度利用するための新しいコンセプトとなる知見を提供。
アルギン酸は,コンブやワカメなどの褐藻に最も多く含まれている多糖類です。ヒトは,アルギン酸の分解酵素をもたないため,これらの海藻を食べてもアルギン酸は体内に吸収されず排出されます。一方,自然界には,アルギン酸の分解酵素をもつ生物(一部の細菌やアワビなどの海産軟体動物)が存在しています。これらは多糖リアーゼという酵素によってアルギン酸を分解し,DEHUと呼ばれる化合物を生み出します。DEHUについては,細胞内で還元反応を受けた後,最終的にピルビン酸に変換される還元的代謝経路が1962年に米国の研究者によって提唱されました。提唱から現在まで,アルギン酸を栄養源として利用する生物は,細胞の還元力を消費しながらこの経路でDEHUを代謝すると考えられてきました。
研究グループは,単離した褐藻分解菌の抽出液中にDEHUを還元だけでなく,酸化する酵素も存在することに気付きました。その酸化酵素を同定した結果,興味深いことにDEHUの還元を担う酵素と同一のものであることが明らかになりました。さらに,DEHU酸化物を変換する新規酵素も発見し,細胞の還元力を消費しないDEHUの酸化的代謝経路の全容を解明しました。
アルギン酸は多くの分野で利用されている有用多糖です。近年では,食糧と競合しない褐藻から大量に得られるため,新しい利用法の開発が注目されています。例えば,アルギン酸をバイオエタノールに変換する能力をもつ酵母や大腸菌の開発が進められましたが,DEHU代謝時に生じる細胞の還元力不足の克服が最重要課題でした。本研究の知見は,この問題解決に新しいアイデアを提供するものであり,新技術の開発を加速するものと期待されます。
なお本研究成果は,2021年11月2日(火)公開のCommunications Biology誌にオンライン掲載されました。
◇井上 晶教授 | ◇尾島 孝男教授 |
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