北海道大学（本部：北海道札幌市、総長：寳金清博）大学院水産科学研究院（函館市）酒井隆一教授は，READYFOR 株式会社（本社：東京都文京区，代表取締役CEO：米良はるか）が運営する国内初・国内最大級のクラウドファンディングサービス「Readyfor」にて，5/17（土）より支援金募集を開始しました。

https://readyfor.jp/projects/powerofnaturalproducts

【クラウドファンディングプロジェクト概要】

酒井教授はこれまでおよそ40年間、海洋生物から薬を見つける研究を行い、抗がん剤として用いられているYondelis等の研究に携わりました。これまでの研究経験を活かし、新型コロナウイルス治療薬の素材を発見するために、国の緊急プロジェクト（J-Rapid）として、海洋生物から新型コロナウイルスの治療に役立つ化合物を見つける研究に着手しました。昨年度1年間で約400種の海洋生物を採集し、新型コロナウイルスの感染を阻害する抽出物を30種見出しました。また、酒井教授がこれまでに精製した化合物のストックから新型コロナウイルスによる細胞の障害をほぼ完全に阻害することのできる化合物Aも見出しました。まだ基礎研究の段階であり、動物実験やヒトにおける臨床試験を経ていないので、同様の阻害作用が人体でも通用するか否かは、将来的に探っていく必要がありますが、貴重な発見であると考えています。今後抽出物に含まれる化合物を精製し、それぞれについて新型コロナウイルス阻害薬としての効果を調べてゆく必要があります。またより多くの海洋生物を集め、探索を続けることも大切です。現在世界中で新型コロナウイルス感染症の治療薬発見を目指した研究が進んでいますが、海洋生物を探索源とした研究はこれまでになく、新しい作用機構を持つ物質の発見が期待できます。既存医薬12000種のスクリーニングで30種の化合物（0.25%）が抗SARS-CoV2活性を示したという最近の研究と比較しても海洋生物に秘められた力は魅力的なものといえます。

現在国の研究費は終了し、次の研究費獲得まで研究を継続するためには迅速に資金を得る必要があり、そのためにクラウドファンディングを実施することとしました。

【プロジェクトの目的】

　プロジェクトの目的は新型コロナウイルスをはじめとした感染症の原因となるウイルスに対し、抗ウイルス作用を持つ新しい化合物を発見し、その化学構造や作用機構を調べることです。つまり、薬を作るために必要な「情報」を海の生物から引き出すことです。新型コロナウイルスのパンデミックにおいて初期に注目された医薬の多くは臨床試験で十分な効果を発揮できず、治療薬として認可されることが難しい局面にあります。新型コロナウイルスについては現在世界中で研究がおこなわれていますが、今一番大切なのはウイルスがどのように細胞に侵入し、感染・増殖してゆくかを理解することです。海洋生物から得られる化合物はその理解を助けるための貴重な戦略物質であり、新しい薬を設計するための起点にもなります。本研究ではそのような化合物を一つでも多く見出すことを目的としています。今回のクラウドファンディングでは2022年10月31日までに2回採取に行き、約400の海洋生物を採取・活性の評価をしたことをもってプロジェクト実施完了としています。

【感染症に備えるための貴重な財産に】

　COVID-19の世界的な蔓延により、人類がいかにウイルス感染症に備えていなかったのかが浮き彫りになってきました。また我が国の医療体制やワクチン開発、そして医薬開発も平時には世界的に優れたものであっても、柔軟な対応が重要なパンデミックにおいては世界に見劣りする状況になっています。酒井教授の研究は伝統的に日本が世界をリードしていた海洋天然物化学の研究と抗ウイルス薬の発見を結びつけるものです。海洋生物は陸上の生物や合成化合物とは異なった特徴的な化合物を作り出しています。しかしそれを発見する研究は高い効率と生産性を求められる製薬企業で実施することは難しく、多くの会社が手を引いているのが現状です。このプロジェクトは海洋天然物化学の研究を得意とする大学の研究者が最初の一歩を踏み出すことでこれまでにない医薬素材を見出そうとするもので、今後たびたび発生すると予測されているウイルス感染症に備える貴重な財産となります。