キャンパス・コンソーシアム函館が主催する合同研究発表会「HAKODATEアカデミックリンク2022」(https://www.cc-hakodate.jp/academiclink-web/)がオンラインにて開催されました(会期:11月6日、11月10日~12日4日)。本発表会は、函館市内の高等教育機関で学生らがどのようなことを学び、研究しているのかを広く市民の皆様に知って頂く事を目的とし、特に函館の高校生に内容を知ってもらいたいという趣旨で行われています。ブースセッションにおいて47チーム、ステージセッションにおいて11チームが参加し、北海道大学水産学部から6チームが受賞となりました。おめでとうございます!
◇大賞(ステージセッション)
テーマ:どさんこアクアポニックス-魚が野菜を育てる!?-
チーム名:アクポニ部
修士1年 小島 悠暉、修士2年 中村 風歌、学部4年 會田 有未、斎藤 奈緒、福島 佑斗
所属:海洋応用生命科学部門 育種生物学分野
指導教員:藤本 貴史 准教授、西村 俊哉 助教
研究内容
アクアポニックスは水産物の養殖と野菜の水耕栽培を組み合わせた新しい農水産業です。アクアポニックスでは魚の飼育水槽と野菜の栽培水槽の間で水を循環させながら魚と野菜を育てます。これによって魚のフンやエサの食べ残しを水耕栽培の肥料として活用し、エサに含まれる栄養によって魚と野菜の両方が育ちます。また、植物を育てることによって水の汚れを取り除き、汚れた水を捨てずに魚を健康に育てることができます。さらに、アクアポニックスはそれぞれの水槽を柔軟に配置することができ、少ないスペースでより多くの作物を収穫することができます。
このようにアクアポニックスでは少ない水、肥料、土地で魚と野菜の両方を育てることが出来るため、食糧問題や水問題の解決策として今注目されています。私たちはこれまでのアクアポニックスでは育てることの難しいマスの仲間を育てることの出来るシステムを目指し、研究を行っています。
◇大賞(ブースセッション)
テーマ:大沼由来の細菌でアオコを防ぐ
チーム名:チームアオコ
学部4年 西崎 真弘
所属:海洋応用生命科学部門 生物資源化学分野
指導教員:藤田 雅紀 准教授
研究内容
藍藻の過剰な増殖により水面が緑一色になる「アオコ」は悪臭や毒素の産生により、沿岸環境や淡水資源の利用に甚大な被害を及ぼします。これまで様々なアオコ対策が取られていますが、より低コスト・低環境負荷な方法として、アオコの原因藻類を殺滅する「殺藻細菌」の利用が注目されています。殺藻細菌は水草表面に高密度で存在しますが、実際のアオコに対して効果的かつ確実に利用するにはまだ解決すべき点が多いです。殺藻細菌の基礎的知見を得るために殺藻現象前後における細菌種構成を調べたところ、複数の細菌種が殺藻後に増加しました。有力な殺藻細菌候補として、その様な細菌の一つであるStenotrophomonas属を大沼の水草から分離し、実際に殺藻効果を有することを確認しています。今後は、培養液から殺藻物質の同定を進めるとともに、その生産機構や微生物生態を明らかにし実効的なアオコ対策の確立につなげる事を目標にしています。
◇優秀賞(ブースセッション、産学連携「クリエイティブネットワーク」賞)
テーマ:養殖条件の違いによってカキ殻の形状はどのように変わるのか?
チーム名:美牡蠣をたずねて三千里
修士2年 銀杏 優志、学部4年 櫻田 悠介
所属:海洋生物資源科学部門 海洋計測学分野
指導教員:富安 信 助教
研究内容
マガキの殻の外観はマガキの品質を評価する上で重要な要素です。一般的に価値が高いマガキは殻の形状が幅広くカップが深い個体とされています。従来マガキ養殖は養殖ロープ上で高密度に個体を育生してきました。一方で、価値の高い個体の生産のために養殖バスケットの中でマガキを自由に転がしながら育てる「シングルシード養殖」が行われています。しかし、使用されるバスケットの種類や養殖密度といった条件がマガキの殻の形状に影響することが示唆されており、良質な個体を効率的に生産するにはバスケットの揺れと個体の成長、行動との関係を理解する必要があります。本研究では北海道厚岸町のシングルシード養殖施設において、3種のバスケットを用いたマガキの育成実験を行いました。実験ではマガキの殻の成長量を計測するとともに、加速度・磁力センサーを用いて各バスケットの揺れ方と個体の殻の開閉に基づく摂餌行動の特徴について調べました。
◇優秀賞(ブースセッション)
テーマ:色落ちダルスに救済を!
チーム名:ゆっくりダルスch
学部4年 濵﨑 海瑠、修士1年 辰巳 幸彦
所属:海洋応用生命科学部門 水産資源開発工学分野
指導教員:熊谷 祐也 准教授
研究内容
紅藻ダルスは昆布養殖のロープに繁茂しており、昆布の成長を妨げる厄介者とされています。函館の昆布生産地である南かやべ地区だけでもダルスの資源量は約1,000 t/年とされています。そのため、新たな地域資源としてダルスの活用法が期待されています。私たちはダルスの栄養成分を調べており、タンパク質が2~3月に最も多くなり、4月以降に急激に減少することを突き止めました。その間、食物繊維の量が大きく変化がないことを発見しました。このことから、4月以降のダルスの利活用として主要な食物繊維であるキシランに注目しました。これまではキシランからオリゴ糖を作る研究を行ってきましたが、今回は、キシランを原料としていろいろな機能性をもつカロテノイドの生産にチャレンジしました。
◇審査員特別賞(ブースセッション)
テーマ:北極の氷が融けたら何が起きる?
チーム名:チーム北極
学部4年 吉村 将希、秋野 僚太、越 優理、松浦 未來、修士1年 能城 太一、博士1年 戸澤 愛美
所属:海洋生物資源科学部門 海洋環境科学分野
指導教員:野村 大樹 准教授
研究内容
北極海では、海水が凍り、海氷ができます。大気と海氷の間では、一年を通して二酸化炭素のやり取りが起きています。その量や方向は季節によって変化します。夏になり気温が上昇し、海氷や雪が融け始めると、海氷の上に、融け水の水たまりができます。この水たまりはメルトポンドと呼ばれており、メルトポンドでは、海氷だけの場所よりも、多くの二酸化炭素を吸収しています。また、海氷の内部には植物プランクトンが生息しています。植物プランクトンによる生物活動の影響で、海氷内部に存在する様々な化学成分の濃度が、海洋表層の濃度とは異なるものになります。そして、海氷が融けると、海氷中の化学成分が海洋へ広がることで濃度が増加したり、逆に、淡水が流入することで、濃度が薄められたりします。将来の環境変化を予測するためには、このような作用を定量的に評価することが不可欠であり、私たちも引き続き貢献していきたいと考えています。
◇審査員特別賞(ブースセッション)
テーマ:微生物のコミュニケーションを暴く
チーム名:チームQS
学部4年 石畠 佳奈
所属:海洋応用生命科学部門 生物資源化学分野
指導教員:藤田 雅紀 准教授
研究内容
皆さんはクオラムセンシングという言葉をご存知でしょうか。これは微生物間のシグナル物質を介したコミュニケーションを表す言葉です。クオラムセンシングにより、微生物は毒素産生やバイオフィルム(排水溝のぬめりけなど)形成を開始します。私たちがクオラムセンシングを制御することで微生物による疾病や衛生問題を解決できる可能性があります。
我々は環境DNAからQAI-1と名付けた新しいシグナル物質を生産する遺伝子を見つけました。QAI-1はこれまでに知られているシグナル物質よりも低濃度で作用し、また、多くの微生物が有する酸化酵素により普遍的な生体分子であるインドールから生産されます。すなわちほとんどの微生物はQAI-1を作る能力を持っています。しかし、その生産機構は十分には明らかになっていません。私は現在、インドールが酸化され最初にできるインジゴからQAI-1が生成する機構の解明に取り組んでいます。