本日、ここに北海道大学より学士・修士・博士の学位記を授与される皆さん、誠におめでとうございます。例年でしたら、教職員、父兄が一堂に会し学位記授与式が挙行され、皆さんの門出を祝うのですが、今年は新型コロナウイルス感染症拡大防止対策のため、残念ながら全学生を対象とした学部・学院の卒業式・修了式は行うことができませんでした。
さて、昨年来のコロナ禍は皆さんが大学・大学院に入学された時、予測もしなかった出来事だったと思います。まさに大災害に匹敵するような出来事だったでしょう。今から1年前、講義・実験棟や研究室への立ち入りがほぼ禁止され、サークル活動も禁止されました。5月末にようやく研究室での研究が再開された後も、感染症拡大防止対策のため研究活動は大きな制限を受けました。フィールド研究や練習船の調査においても中止を余儀なくされました。また、学会活動もほぼ休止状態に陥り、学術誌への掲載を課された大学院生におかれては限られた年限で研究をまとめるのに大変な苦労を強いられたことと思います。こうした困難な状況の中、日々研鑽に励まれ、本日卒業・修了の日を迎えられたことに、水産学部・水産科学院の教職員を代表し、心よりお祝の気持ちをお伝えしたいと思います。
「Lofty Ambition」という言葉は、皆さんが、入学以来何度となく耳にした言葉だと思います。1876年札幌農学校の開校式において、初代教頭のウィリアム・S・クラーク博士が、「高邁なる大志」をもって毅然として新しい道を切り拓いて生きることを示されたもので、札幌農学校開学以来、掲げ、培ってきた、北海道大学の基本理念の一つ「フロンティア精神」の起源です。新たに発生する大きな課題に対し、常に豊かな創造性を持って不断に研究を推進することを示したものです。水産学部・水産科学院ではこの言葉とその精神を大事にしています。今回のパンデミックも、私たち人類が乗り越えなければならない、大きな試練の一つであり、学位記を授与された事は、皆さんが北海道大学の理念を持ち、研究を達成したあかしです。
今後は、社会人や研究者として歩み出す皆さんにとって、自身の想像力、判断力、そして行動力が重要となります。また、現在のコロナ禍の中でリモートワークの推進のように雇用形態や社会システムの変革が加速され、コロナ禍が収束しても元の状態へ戻ることはないと思われます。現代は、「VUCA(ブーカ):先の見えない時代」と称されていますが、このコロナ禍の中で一層「VUCA」が進んだかもしれません。皆さんにとって、先の見えない時代は、目標が定まらず厳しい状況に写るかもしれませんが、ポジティブにとらえて下さい。こういう時だからこそ、本学で培った皆さんの柔軟な対応能力が必要とされています。私は、皆さんにはその能力が備わっていることを信じております。
これからは、本学部・学院で培った水産科学そして社会全体を俯瞰できる目と国際性に対応できる力、さらに研究の課程で築き上げてきたネットワーク等を基に、それぞれの歩まれる分野で活躍されることを期待します。
簡単ですが、私からの祝辞とします。
2021年3月25日
水産学部・水産科学院長 木村 暢夫