人と海を繋ぐサイエンス「水産科学」~きっと君たちの「好き」が活かせます
このページをご覧になっている皆さんは、きっと「海」が好きで、好きな海に関する研究をしたいと思っている方達なのでしょう。
皆さんは水産科学といえばどのような研究を思い浮かべるでしょうか。水産科学は魚貝藻類の生態や分布を研究しその漁獲技術や養殖技術の開発をおこなっています。また、漁獲物の加工・保存技術の開発、それらに必要な漁船や漁具、機械類の開発とシステム化など、水産業に直接関わる技術開発の側面を持ちます。しかし、これは水産科学のほんの一面に過ぎません。海洋生態系や海洋環境の実態を解明し、その変動が水産資源に与える影響を調べることや、水産物流通・経済、海洋法規などの社会科学分野も水産科学の大きなテーマです。これらはすべて「海を知り、そして人が海の恵みを効率的に利用する」ための研究分野です。つまり、水産科学は「人と海を繋ぐ」サイエンスであると言っていいでしょう。現在では単に食料としての水産物の生産にとどまらず、海洋生物が創り出す特殊な代謝物を利用した製薬研究、水産食品が持つ健康機能性に関する研究、水産業のデジタル化やシミュレーション技術に関する研究(水産DX)、海洋生態系の修復に関する研究など、その研究領域は大きく拡がっています。つまり、生物学、化学、物理学、工学から文系分野まで、「人と海を繋ぐ」研究分野が幅広くそろっているのが水産科学です。
大学院水産科学院では、海洋・水圏の生物資源の持続的生産とそれらの効率的利用、さらにそれらを保証する海洋生態系の保全の基礎と応用を総合的に考究する学問体系としての水産科学の修得を目的とし、高度な研究能力、広い視野、地球規模の行動力を持つ創造的で意欲ある人材の育成をめざしています。水産科学院で学ぶことができる分野は先に述べたように幅広く、皆さんはきっとそれぞれの「好き」をみつけて学びたい気持ちを満足させることができるでしょう。また産業に直結するサイエンスである水産科学は「世の中の役に立ちたい」「社会をよい方向に変革したい」という皆さんの希望をかなえることを手助けしてくれるでしょう。
大学院を修了したら
北海道大学は学部における教育だけではなく大学院にも教育の重点をもつ大学です(大学院大学と呼ばれることもあります)。水産・海洋系の学部をもつ大学院大学は全国でも北海道大学だけです。
大学院水産科学院には2年間の修士課程(博士前期課程)と修士課程修了者が進学する3年間の博士後期課程があります。どちらの課程でも講義による知識の修得だけではなく、研究力の強化に力が入れられた実践的な教育が展開されます。そのため、将来は研究開発系の職業に就きたいと考えている皆さんには大学院進学は必須とも言えます。
大学院水産科学院の修士課程修了生の就職先は水産系の企業だけではありません。水産庁や経済産業省、文部科学省などの国家公務員、食品系企業のほか、外資系企業や銀行など、多様な企業が就職先になっています(具体的な就職先は広報誌AQUAをご覧ください)。職種も研究開発職だけではなく、製造・品質管理系や営業系、企画・マーケティング系、事務・管理系にも多くの修了生が就職しています。このことは社会人として業種・職種を越えて必要になる論理的思考力やリーダーシップ、研究・開発力などが、水産学部や大学院水産科学院においてしっかり身につくことを示しています。一方、博士課程修了生の就職先は大学教員や国立研究開発機構水産研究・教育機構や地方自治体(都道府県)のいわゆる水産試験場(近年多くの自治体の水産試験場は地方独立行政法人化され水産試験場という名称ではなくなっていますが、ここではわかりやすくするために「水産試験場」という言葉を用います)の研究員のほか、民間企業の研究開発職がほとんどをしめます。博士課程まで進学すると就職に困る、ということはありません。
水産科学の未来
人口増加が進む世界において、水産物の需要は高まる一方です。しかし一方で、近年の過剰漁獲や地球環境変動は海の恵みである水産資源の激減を引き起こしています。そして地球環境変動の原因の一つに人間活動に起因する大気中二酸化炭素濃度の上昇があることも間違いありません。また、マイクロプラスチックの例に見られるように、人間活動が生み出す様々な産業廃棄物が海洋の生態系のみならず私たちの健康にも影響を与える状況となっています。
こうした中、2015年の国連サミットにおいて17の目標を定めた「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、持続可能な開発目標(SDGs)が示されました。その14番目の目標には「海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し持続可能な形で利用する」ことも謳われています。海の環境をまもり、改善し、そして豊かな水産資源を私たちの子供や孫の世代に引き継ぐためにも、我が国の、そして世界の水産業は持続可能な形に生まれ変わらなければなりません。
このように、これからは水産業を持続可能な形に変えていくためのサイエンスが重要になります。このことは、北海道大学の先人達が長い時間をかけて造り上げ、そして現在の水産業を築く礎となった水産科学を基盤として、21世紀に必要な新しい水産科学が必要になったことを意味します。
最後に ~Be ambitious!
北海道大学の前身である札幌農学校の開校式において、初代教頭W。 S。 クラーク博士は「Lofty Ambition 高邁なる大志」をもって毅然として新しい道を切り拓いて生きることを示されました。このことは北海道大学の4つの理念の一つ「フロンティア精神」として今も私たち「北大人」の心に生きています。また、クラーク博士が北海道を離れる際には “Boys、 be ambitious” 「少年よ、大志を抱け」という言葉を残されました。持続可能な水産業を実現するための新しい水産科学はまだ生まれたばかりで、これから多くの壁を乗り越えて大きく成長しなければなりません。しかし、大志を持って事に当たれば必ずや大きな成果を得ることができるでしょう。
大学院水産科学院で皆さんがそれぞれの「好き」をみつけて大志を持って大いに学び、私たちといっしょに皆さん自身が持続可能な社会の構築に貢献する日が来ることを切に願っています。