山内水産科学研究科長に紫綬褒章



更新日:2003/12/09


 このたび大学院水産科学研究科教授山内晧平氏(大学院水産科学研究科長)が紫綬褒章を受章しました。
 同氏の長年にわたる教育・研究・特に水産増殖学に関する一連の優れた業績と学術の発展に寄与した功績に対して贈られたものです。
 同氏の受章に当たっての感想と功績等を紹介します。



 このたび、紫綬褒章受賞の栄誉に浴しました。誠に嬉しく、光栄に存じます。
 実は私の恩師の故山本喜一郎先生も退官の年に同賞を受けていますので、感慨深いものがあります。退官された山本先生の席を埋めるようにして助手に採用された私としましては同じ賞を受けたことで、少しでも先生の御恩に報いることができたかなと思っています。しかも、水産増殖学というあまり馴染みの薄い分野に眼を向けて下さったことは、これからの若い人達の研究の励みになるものと思うと喜びもひとしおです。
 水産増殖学というのは、私達の生活に有用な水産生物の資源の増大に資する諸々の分野の総称です。生物は遺伝子を次世代に残すために、性成熟をして卵および精子を形成し、受精します。受精卵は発生、孵化して稚魚になりますが、その後の長い成長期間を経て再び性成熟をするという生理現象を繰り返しています。私達はこの一連の受精、成長、成熟の現象を細胞、遺伝子レベルから解析してきました。
 何故、水産学を志したかとよく聞かれますが、実は「酒」が私をこの道に導いたのです。大学受験の前日、眠れずに悶々としていましたら、弟が眠り薬にと酒を勧めてくれたのです。よし、とばかりに2杯ほど飲んで寝たのですが、あろうことか完全に酔ってしまい、明け方まで地獄の苦しみの時間を過ごしました。自分はアルコールを受け付けない体質だと分かったのは大学に入ってからです。当然、受験できず、その後2ヶ月間は虚脱状態が続いていましたが、6月の或る日、新聞の一面に「ウナギの人工催熟に成功」という記事が載っていました。その記事を読み返すうちに、自分が思い込んでいた進路とは違う素晴らしい道があることに気付き、海の生物を相手に仕事をすることに決めたのです。大学院修士課程ではメダカの卵巣から未成熟卵を取り出し、生体外で卵成熟を誘起する研究をしましたが、博士課程に進んだ時、教授からウナギをやれ、と言われました。ウナギこそが自分を水産の道へ導いた魚ですので勿論承諾しました。それからは先述の新聞記事のグループを含め国内外の多くの研究グループと孵化稚魚を得るための競争となりましたが、幸運にも我々が世界で初めてウナギの卵や稚魚の発生を観察することができました。この成功のニュースは国内外に流されましたが、この記事を読んで北大に入学してきたのが、現在私の研究室の足立伸次助教授です。
 成熟期に入った雌ウナギの体長は80cm程もありますので、実は実験魚としては不適なのです。この不利なウナギを材料とするためには多くの人達の協力体制が必要です。従って、ウナギの研究を通して育った多くの若き研究者達は今でも鉄の結束で結ばれています。アメリカでは我々のグループは「ハコダテマフィア」と呼ばれています。
 最後になりましたが、ハコダテマフィアを代表して、今回の受賞に際し、御配慮、御協力いただきました事務当局および関係者の皆様に厚く御礼を申し上げます。



略  歴  等
生年月日 昭和17年9月4日
出身地 熊本県
昭和44年3月 北海道大学水産学部卒業
昭和46年3月 北海道大学大学院水産学研究科修士課程修了
昭和50年3月 北海道大学大学院水産学研究科博士課程修了
昭和50年3月 水産学博士(北海道大学)
昭和51年8月 北海道大学水産学部助手
平成元年4月 北海道大学水産学部助教授
平成 6年 4月 北海道大学水産学部教授
平成 7年 4月 北海道大学水産学部長,
平成11年3月 評議員
平成11年4月 北海道大学評議員
平成14年3月
平成14年4月 北海道大学大学院水産科学研究科長
現     在



功  績  等
 山内晧平氏は永年にわたって、水産学の教育、研究に努め、特に水産増養殖のための基礎研究を行い、それらの知見をもとに魚類の人工採苗法の確立に大いに貢献しました。またこれらの研究を通して、これまで多くの学士、修士及び博士等若手育成につとめました。
 これまで同人は水産資源上重要な魚種で人工飼育環境下で成熟を制御することが困難な魚種の資源維持や資源増大を目指して、その基礎となる魚類の配偶子形成(卵形成及び精子形成)の解析に努め、得られた成果を人工採苗法の確立に応用してきました。特に、人工飼育環境下では成熟せず、加えて海洋で成熟魚の採捕例がないウナギでは、長い間、配偶子形成機構や孵化稚魚の発生過程は不明でした。同人は未成熟なウナギを人為的に催熟することにより成熟卵を得、続いて人工授精により孵化稚魚を得ることに成功し、配偶子の発達、卵発生及び孵化稚魚の発生過程を世界で初めて観察しました。以後、配偶子形成の内分泌制御機構を形態学的、生理学的及び分子生物学的手法を用いて解析し、多くの新知見を見いだしました。それらの、基礎的データはウナギの人工採苗法の開発に応用され、同人が提唱した方法は現在、世界各研究機関で用いられています。
 一方ウナギ雄の配偶子形成の解明においては、精巣片の生体外培養系を開発し、その実験系を用いて、脊椎動物で初めて試験管内で精原細胞から精子までの全形成過程を誘導することに成功しました。このことにより、配偶子形成に関与する多くの因子を同定することができました。この実験系は脊椎動物の配偶子形成機構解析のためのモデルとして生命科学分野で注目されています。
 これらウナギの配偶子形成機構に関する研究成果を他魚種にも応用し、水産重要種であるマツカワガレイ等の性分化機構を明らかにすることにより、その種苗生産技術の確立、また、キャビアとして重宝される卵を有するチョウザメの人工採苗法の確立に寄与しました。さらに、サケマス類の回遊機構の解明による孵化・放流事業への応用等、水産増養殖分野の発展に貢献しました。
 これらの業績に対して、これまで日本水産学会進歩賞、日本動物学会論文賞、日本農学賞及び読売農学賞を受賞しています。地域社会活動としては、水産庁水産政策審議会委員、北海道水産業漁村振興審議会委員などをはじめとして、国や北海道の各種委員を歴任し、水産分野の振興と発展に大いに寄与しました。
 以上のように同人は現在までの長きにわたり、北海道大学の教育研究はもとより、学界における学術の進展並びに地域産業の発展、振興に多大なる貢献を行っており、その功績は誠に顕著です。