准教授:埜澤 尚範

1.研究内容

当研究室では、生鮮魚介類を高鮮度に保持する技術の開発とその原理解明を行っています。

魚介類を即殺しても、その筋肉組織・細胞は「しばらくの間」生存しています。 これは生体エネルギーであるアデノシン3リン酸(ATP)が残存しているからです。 魚介肉組織・細胞が死ぬ原因は、血液の循環停止によって起こる酸素欠乏、つまり窒息死です。 よって死後直後の組織に酸素を直接補給すれば 細胞が呼吸を持続しATPを再生産して生き続けることができるのでは? と考え生存保蔵法(当研究室では、この新しい保存法をこのように呼んでいます)の研究をスタートしました。

図1.ホタテガイ貝柱の浸漬保蔵

まず初めにホタテガイ貝柱切片(刺身)について検討しました。 ホタテガイは海水に生息しており、その体液は海水と等張です。 また開放血管系なので、ホタテガイ貝柱切片を何か適当な人工海水に浸漬(しんし)すると(図1)、 生体内と同様の生存反応を示すのではないかと考えました。

その結果、高溶存酸素下では、低溶存酸素(一般の冷蔵保蔵とほぼ同じ変化)に比べ、 2~3日間、ATPレベルが維持されている、つまり細胞が生存していることが分かりました(図2)。 また、酸素中でもホタテガイ貝柱細胞が死ぬ理由は、浸漬中にホタテガイの表面に好気性の微生物が繁殖し、 貝柱表面を覆うことで貝柱が酸欠となり窒素死することが推察されました。 そこで、抗菌物質を添加すると(仮説を証明する為に実験として使用しました。 抗菌剤入りの生鮮食品を開発している訳ではありません)、貝柱を約20日生存保蔵することが可能でした。 この方法は、スルメイカ、コイ、ヒラメ、他の貝類等でも検討し、程度の差はあれ、応用が可能です(図3)。 酸素ガスを利用した、これらの技術を上手に利用すると、高鮮度な魚介類の刺身を安価に流通させることが可能になると考えています。 また、ガスパック時の組織・細胞の代謝活性、タンパク質の変化を解析することで細胞の環境適応機構などが解明されると期待されます。

酸素ガスパックは、魚の臭いや変性の原因であるトリメチルアミンオキシド(TMAO)分解物を抑制する効果も認められており、 これらの研究も行っています。 当研究室では、この他に、魚介類組織に存在する架橋酵素トランスグルタミナーゼの構造と生理機能に関する研究も行っています。 トランスグルタミナーゼは、ゲル化食品(かまぼこ等)の製造時に作用することが知られている筋肉内在性の酵素ですが、 最近、当研究室では魚類のコイやスケトウダラの酵素が、ミオシンのS2領域の520番目のGln残基と特異的に反応することを明らかにしました。 おそらく、ここが最初の架橋部位であろうと推察されます。また軟体動物由来のトランスグルタミナーゼの構造については、 まだ十分に解明されておらず、その生理機能の解明も含めて研究を進めていきたいと考えています。 水産生物は、まだまだ未解明な生命現象や機能物質の宝庫です。当研究室では、実学的な研究もありますが 、何故そうなのか?と生命の現象に少しでも迫るような基礎研究やそれらにつながる研究も大事にしていきたいと考えています。

図2.ホタテガイ貝柱ATPの変化に及ぼす溶存酸素濃度の影響
図3.ヒラメ刺身の酸素ガスパック生存保蔵

連絡先:  埜澤 尚範  [管理研究棟 S405室]
MAIL: nozawa◎fish.hokudai.ac.jp  ※「◎」を「@」に変更
TEL: 0138-40-5566