日本学術振興会(JSPS)の論文博士号取得希望者に対する支援事業(論博事業)により2008年6月18日から25日の日程で訪中した。今回の訪問の目的は論博研究者の李雅娟さん(大連水産学院教授)の博士論文課題研究のため、長江(揚子江)流域を訪問し染色体を100本もつ自然四倍体ドジョウの生息状況、養殖の現場を実地に見聞し、試料採集をあわせて行い、研究を進めること、また、大連水産学院においてドジョウの減数分裂期の染色体像を観察する方法を実地に指導することにあった。
 18日に成田を出国し、大連周水子空港にて入国し、本訪問の様々な手続き(滞在中の研究試薬の調達等)を行った。そして、翌日、湖北省の中心都市である武漢市に国内便で移動した。空港には、湖北省水産科学研究所ドジョウ研究チームの長の印傑(Yin Jie)さん(高級技術者と言う肩書きを持つ)が出迎えにこられ、同所で意見交換を行った後、有名な漢詩にある「黄鶴楼」を見学した。
李雅娟さん、筆者、印傑さん
 次の日は中国科学院(Chinese Academy of Sciences)傘下のトップ研究所の一つである水生生物学研究所(Institute of Hydrobiology)を訪問し、まず、当所の研究者・大学院生を対象に“Loach Biology—Present Status and Perspective” (ドジョウ生物学の現状と展望)と言う題で、北大の紹介、COEプログラムの概要説明を含め、約60分間講演を行なった。ドジョウを材料に近年活発に研究発表を行っている華中農業大学のグループもこの講演を聴きつけて、わざわざ参加してくれ、多くの質疑があった。
水生生物学研究所における講義
その後、東大海洋研の渡辺良朗教授の下でポスドク研究員を行った経歴をもつ謝松光(Xie Songguang)教授の案内で所内を見学した。本研究所は1991年開催の第3回国際養殖遺伝学会(International Symposium on Genetics in Aquaculture)の折にも訪問したが、当時の所内研究室の多くは、核移植を中心とした発生生物学、染色体操作を中心とした遺伝育種、魚病ウイルスの分子遺伝学などが重要課題であったが、現在は環境、生態、多様性と看板に掲げる研究室が多く見られ、時代の流れを強く感じた。案内にあたられた謝教授も長江に建設される三峡ダムの魚類生物相・多様性への影響が中心課題との話であった。非常に研究が活発でレベルも高いことは、所内の設備、大学院生の様子、各所に掲示されているポスターまた資料等から推測できた、本研究所は基礎生物学のみならず、長江の水産もターゲットに入れた応用研究を水生生物学の立場から、行っていることから、将来、本学との学術交流を考えるには恰好のパートナーになりうるとの印象を強く受けた。今後の一層の交流の拡大に期待したいところである。
筆者と、桂建芳教授
 今回は、当所の前所長であり、魚類の発生生物学、特に雌性発生をするフナの生殖機構と進化、ゼブラフィッシュ、メダカを用いた生殖細胞関連遺伝子など広範囲の研究を活発に研究されている、1991年以来の知己である桂建芳(Gui Jiangfang)教授、さらに、過去に国際学会(北京、ハリファックスなど)において何度も会った中国を代表する魚類遺伝学者・院士(アカデミー会員、日本の学士院会員に相当)である呉清江(Wu Qingjiang)教授にも会うことができ、大変懐かしい時間を過ごすことができた。
筆者と、呉清江教授
 午後、武漢を出発し、高速道路から地方道にはいり、さらに三国志に有名な赤壁からフェリーで揚子江を渡り、魚料理と蓮で有名な洪湖市に入った。あまり大きな町ではないときかされていたが、人口は90万人とのことであった。ここでは、洪湖市久加久水産公司社長の阮雪城氏経営のドジョウ養殖場を見学した。同氏は、種苗生産の基地と種苗育成の養殖池を運営しており、相当量のドジョウを韓国に輸出しているとのことであった。湖北省のドジョウには二倍体と四倍体がいるが、同氏は区別できるという。不思議な話であった。中国の七大淡水湖のひとつである洪湖も見学させてもらったが、水面が蓮に覆われているところもあり、湖上で生活している家もあり、大変、見ごたえのある風景を有する湖であった。
 湖北省訪問を終え、6月22日に空路、大連市に帰還した。その後の二日間(23日・24日)は、李雅娟さんに染色体標本の作り方,蛍光顕微鏡での観察の方法を実地に指導し、最終的には、成熟した卵の卵核胞から作成した染色体標本にまずまずの染色体像を見つけ、写真に取ることができた。そこで、この間改装された飼育施設を持つ新校舎を見学し、さらに、大連から北に数時間かかるダム湖のほとりまで移動し、本COEの事業推進担当者である足立教授が熱心に取り組んでいるチョウザメの養殖場を見学した。驚いたことに、中国で二番目の大きさのチョウザメ養殖施設とのことで、湖に生簀を浮かべ、親魚を5000尾養成していた。ボートで湖上まで出て、生簀を見せてもらったが、巨大なチョウザメ(案内人はオオチョウザメであると主張)がびっくりするほど多く飼育されていた。屋内施設のなかは、ロシア製の一定量水が入ると、自動的に排水され、新鮮な水が常に供給される孵化槽が多数設置され、種苗生産が行われていた。ロシア、ヨーロッパから輸入した複数種について種苗生産をしているとのことであった。屋外にもコンクリート製の20-30トンくらいの容量の池が多く並んでいた。30まで数えたが、さらに奥にも多くあり、数えるのを断念した。これが二番目であれば、一番目の養殖施設の大きさは、いかばかりかと想像したが、大陸は全てのスケールが異なるようである。
 短い期間であったが、当初の研究指導のみならず、国際学術交流の役割を果たすことができ、成田行きが悪天候で欠航にはなったが、なんとか関西空港行きに振り替えてもらい、6月25日に帰国し、函館には26日に無事帰着した。湖北省ではドジョウの、遼寧省ではチョウザメの養殖の実態を見聞することができ、大いに参考になった。短い期間であったが、教育・研究・国際交流の全ての面で充実した出張であった。あらゆる機会をつかい、さらなる日中間の研究教育交流のネットワークの充実が図られることを期待したい。最後に、今回の訪中を支えてくれたJSPS,中国の各研究機関、水産企業の関係者に厚く感謝する。
21世紀COE事業推進リーダー 荒井克俊(北海道大学大学院水産科学研究院)
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