平成19(2007)年、10月27日から31日の日程で、台湾北部の基隆市にある「台湾国立海洋大学」を訪問した。今回の訪問の目的は、台湾海洋大学の郭金泉教授と共同で、養殖産業上重要な小型アワビである「トコブシ」について染色体操作等の海洋生命統御技術の開発を行なうことと、同大学水産養殖系の学生、大学院生、教員に対して、本COEプログラムを含む北海道大学大学院水産科学研究院の研究・教育・社会連携・国際協力における活動状況について紹介し、新たな海外拠点形成に向けた基盤形成の一歩とすることにあった。
 10月27〜29日の期間は、トコブシの産卵誘発、人工受精、染色体操作(三倍体作成など)と染色体標本作成の共同研究に充てた。トコブシは、四半世紀前に筆者が研究したエゾアワビ(成熟年齢2〜3年)とは大きく異なり、早い場合は10ヶ月で成体サイズに成長し、成熟する。また、産卵誘発法、幼生管理法も日本で開発されたエゾアワビの技術ほど煩雑ではなく、貝類の増殖・遺伝育種研究には良い実験材料と思われた。しかし、他の水産無脊椎動物同様に生理・生態に不明な点も多く、一層の産業展開には基礎知見の蓄積が重要と思われる。台湾のトコブシ養殖では、近年、日本のアワビでも問題となった「筋萎縮症」と類似の疾病が蔓延し産業界は打撃を受けており、本疾病の予防法の確立は喫緊の課題であり、抗病性種苗の育種が長期的研究課題として挙げられている。滞在最終日(10月30日)には、近郊の民間トコブシ養殖施設を見学に行ったが、養殖場はよく整理・整頓されており、採苗、稚貝飼育、親貝養成も日本とは異なる簡便な様式でなされているが、大変立派な施設であり、台湾の養殖産業のアクティビティーを強く感じ、大いに参考になった。
 忙しい日程であったため、講演は、29日の午後7時から8時という、大変遅い時間に開始したにもかかわらず、100名を超える参加者があった。北大水産科学研究院の活動に加え、本COEの最新成果についても概要を英語で紹介したが、特に、山羽先生のグループによるゼブラフィッシュのSPTキメラ(Saito et al. Biology of Reproduction, in press)を用いた借り腹生産については、多くの質問が寄せられた。
 今回の訪問では、上記の活動に加え、ホストとなった郭教授のグループが研究されてきた、南限のOncorhynchus属魚類である「台湾マス」の精子凍結保存、AFLPを用いた分子集団遺伝学的研究、環境保全研究等についても、詳しく話を聞くことができたほか、滞在中に台湾のエビ養殖の父とされる高名な水産学者である廖一久教授(中央研究院院士、元台湾水産試験場所長、台湾海洋大学教授)に再会することができ、短い期間ではあったが、期待以上の収穫を得ることができた。今後、さらなる研究協力のネットワーク形成が行われることを期待したい。
(文責 事業推進サブリーダー 荒井克俊 大学院水産科学研究院)
ページTOPに戻る